コロナ禍でオンライン会議が増加し、仕事が効率的になった一方で、対面のコミュニケーションが激減し、社員のやる気が低下しているという企業の相談をよく受けます。
上司と部下、同僚同士、対顧客との間でこれまで交わされていた雑談や飲みニケーション、軽い打ち合わせが減少し、会社と社員のつながりが薄くなっているのです。
つながりが薄くなると、社員が仕事をしているのかどうかということすら把握しにくくなります。
こうした状況が続くと社員は会社から気持ちが離れ、離職・転職という状況にもつながります。そこで、世間では盛んに「従業員エンゲージメントが重要だ」と言われています。
ヤフーでは「社員同士のつながりをどうつくるかを複合的に考えて、どこでも居住制度を進めている」(岸本氏)そうです。想定されるコミュニケーションロスを防ぐために、以下のような取り組みもしています。
懇親会の飲食費用を補助する「懇親会費補助(5000円/月)」に加えて、同社では社内の合宿をリアルで行う場合には、誰とどこで行う合宿かなどの要件を提出すれば交通費や宿泊費の一部を会社が負担する制度もあります。
ヤフーではリアルなオフィスの価値も再認識しています。そこで、「オフィスの価値を再定義する」として、「実験オフィス」と題した取り組みを実施しています。一人で集中して仕事に取り組める「集中ブース」や、チームメンバーとのプロジェクトを円滑にするための「チームビルディングスペース」などを導入しています。
気軽に質問したり疑問をぶつけられたりできるように、メンター制度を導入して、上司以外とのコミュニケーションができるようにも工夫しています。上司と部下が週に1回程度面談をする「1on1 ミーティング」、新人が同期でつながれるようにする「おともだち獲得大作戦」なども導入しています。
ヤフーでは20年11月から、毎月、社員のエンゲージメントサーベイを実施しているそうです。シンプルな内容で毎月、エンゲージメントレベルの推移を確認しています。分かってきたのは、「働く環境の満足度が上昇している」(岸本氏)という点です。これまでのヤフーの複合的な取り組みによって、「社員の働きがい」が上がっています。
日本企業の従業員エンゲージメントは世界でも最低レベルですが、ヤフーのような取り組みをしていけば、エンゲージメントを上げることも可能だということです。
エンゲージメントが最低水準にある結果として表れているのが、日本企業の生産性の低さです。
日本生産性本部がまとめた「労働生産性の国際比較2021」によれば、日本の労働生産性は米国の6掛け程度です。しかもその差は年々広がっているというのが実態です。
このような状況を変えていくためには、日本企業も本当の意味でのウェルビーイングを考えていく必要があります。ウェルビーイングとは心も身体も社会的にも満たされた状態、実感としての幸せ、心の豊かさなどを表す言葉です。
ヤフーの取り組みは、まさにウェルビーイングを高めて、多様な人材が活躍できるような土壌を整備し、優秀な人材の流出を防ぎ、外から優秀な人材を採用できるような環境の実現につながっています。
「働き方の自由度が増すことで、選択・決断に責任を持つようになり、社員の自立につながります。社員のウェルビーイングを高める選択肢を増やして、社員のパフォーマンスを最大化していきたいと思います」(岸本氏)
先行きが不透明な時代におけるキーワードは「人」です。人的資本投資を進めるために、みなさんの会社の社員の持てる力を最大限に引き出せる仕組みを考えるきっかけにしてほしいと思います。
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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