ジョブ型雇用は「すぐクビにできる制度」? 仕事ができない社員はどうなるのか社労士・井口克己の労務Q&A(2/2 ページ)

» 2022年11月29日 05時00分 公開
[井口克己ITmedia]
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ジョブ型でも「解雇回避努力」が必要

 ジョブ型の人事制度は、事業環境に応じて必要な人員が変化するため、環境の変化に応じて組織の改変、人の出入りが頻繁にあることが前提となっています。結果としてこれまでの長期雇用を前提とした雇用システムの見直しが必要となってきました。そのため一部の人には、「ジョブ型の人事制度は簡単に解雇できる制度だ」と思われている節があります。

 しかしながら、それは大きな誤解です。日本では長期雇用を補償する代わりに企業に人員の配置、育成、職種異動の裁量キャリアの構築の自由が認められています。能力不足や事業整理など企業都合による解雇は、簡単には認められていません。別の部署に異動させる、能力向上のための指導をするなどの解雇回避努力が必要となります。

 この判断には企業の人事制度がジョブ型か否かということには関係ありません。そのためジョブ型の人事制度を適用したとしても、能力不足や事業解散などを理由に、解雇回避努力をせずに退職勧奨し、またすぐに解雇することは難しいでしょう。

photo ジョブ型社員の能力が不足していても、企業側の「解雇回避努力」が必要(画像はイメージです。提供:ゲッティイメージズ)

まとめ

 現在の日本の解雇規制の判断枠組みは、長い年月の判例を積み重ねてできあがったものです。見直しを求める声も増えていますが、ジョブ型の人事制度において職務や勤務地の消滅、能力の発揮の度合いで社員を解雇することが、社会通念上相当と認められるには、まだまだ時間がかかるでしょう。

 そのためジョブ型の人事制度を導入する際には、能力が発揮できない場合でも、適正な人員の配置、育成指導、職種の変更で社員が力を発揮できるような人事制度もあわせて導入することが重要だと考えます。

著者プロフィール

井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー

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神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。

全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。

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