マーケティング・シンカ論

クライアントが広告業界の脅威に!? ファミマも参入した「リテールメディア」の破壊力新たなビジネスモデル(2/4 ページ)

» 2022年11月30日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

ファミマも参入

 日本では2021年9月にファミリーマートと伊藤忠商事が、店頭のサイネージを軸としたメディア事業を展開する合弁会社を立ち上げたことが話題になりました。

ファミマ店頭のサイネージ(出所:プレスリリース)
ファミマ店頭のサイネージ(出所:プレスリリース)

 今年2月には、サッポロドラッグストアー(札幌市)とサイバーエージェント、ソフトウェア開発を手掛けるAWL(東京都千代田区)の3社が小売事業者向けOMO(Online Merges with Offline)プラットフォーム「リテールコネクト」を共同開発し、提供を開始しました。

 同サービスは、デジタルサイネージやAIカメラの調達・導入から、ECサイトやアプリをはじめとした自社メディアの運用、広告枠の開発までを支援するサービスです。AWLは16年に創業し、約20カ国から集まる多国籍なメンバーが、リテール店舗の課題解決と価値向上を実現するためにAIカメラソリューションを提供している企業です。

リテールコネクトの概要(出所:プレスリリース)

 自社で広告収益を得るだけではなく、そのノウハウを他の小売事業者に販売するという、従来は広告会社やIT企業が担当していた領域に小売業が参入している構図です。

 このリテールメディアの動きは世界においてはさらに加速しています。その最たる例が、米国のアマゾンとウォルマートです。次の図にある通り、21年にアマゾンは約4.6兆円、ウォルマートは2400億円の広告収入を獲得しています。アマゾン1社の広告収入がとうとうYouTube全体の広告収入を追い抜く規模にまで拡大しています。

筆者作成

 ウォルマートの投資は16年にIT強化の構想が出されて以来、新規出店への投資が全体の20.1%から1.3%まで縮小。一方、それに代替されるかのようにECやITへの投資額が全体の52.5%から67.8%へと拡大するに至りました。そのひとつがリテールメディアであることはいうまでもありません。

 ウォルマートのリテールメディアは同社の店舗やECサイト、アプリでの消費者行動、購買履歴などのデータを活用して店頭に設置されたデジタルサイネージや決済端末のディスプレイ、ECサイトなど多様なメディアへ広告配信を提供します。「ウォルマートDSP(Demand-Side Platform)」という広告配信プラットフォームを立ち上げ、取引先のメーカーへ利用を推進しています。

筆者作成

 ウォルマートはITやメディア開発の投資のみならず、そのノウハウ・知財を特許として多数出願し、その独自性を保持しています。16年から飛躍的に増加しており、この5年で5158件にも及んでいます。その出願内容は売り場における商品ナビゲーションシステムやVRショッピング、AIのマーケティング活用、ドローンを使った店内商品運搬など、店舗における顧客接点のデータを高度化させることに積極的であることが見てとれます。

 これがリテールメディアに広告を出す企業に対して複数の広告の相乗効果を明確なデータのもとで提供する、品質の高い広告サービスにつながります。今後このウォルマートの動きにならい、小売企業が知財を守り、かつ攻めの一手にも講じていく流れは日本においても増えていくことでしょう。

筆者作成

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