当時の日本IBMでは、直近四半期の業績が芳しくなく、リーマンショックによる将来の事業見通しが不透明になったことから退職勧奨を実施した。その対象となった4人の社員が「会社が行ったのは退職強要であり、精神的苦痛を被った」として損害賠償を請求した事件だ。
裁判では、会社側による退職勧奨の適法性が争点となったが、下記の点が判断材料となり、4人に対する会社の退職勧奨行為はいずれも「適法」と認定される結果となった。
このように、会社として適正な評価制度と客観的な評価実績、条件などが整い、対象社員に対して丁寧な説明と説得がなされれば、実質的なクビであっても「正当な退職勧奨」として扱われることになる。すなわち、日本の労働法制の中においても、合法的にクビにすることは決して不可能ではないのだ。
英国系投資銀行の日本法人「バークレイズ証券」元幹部で、年収数千万円という高給を得ていた男性が、会社の経営悪化を理由に解雇されたのは不当だとして、同社に対して解雇無効と未払賃金の支払いを求めていた事件だ。
東京地裁は「人員削減の必要性や(解雇の)人選の合理性などは認められず、社会通念上相当ではない」として、解雇無効と月額約280万円の未払賃金などを支払うよう命じる判決を出した。裁判所は「整理解雇の4要件」に照らし合わせて、本件が解雇無効である判断基準を次の通り示している。
直近1〜2年の間、グループの従業員や賞与総額、役員報酬は増えており、男性の管轄部門も前年を超える収益を上げていたので、解雇の必要性は認められないと判断した。
配置転換の検討のみで、降格や賃金減額などを検討していないことから、十分ではないと判断した。
男性以外の従業員に希望退職を募ったり配置転換を命じたりしておらず、解雇対象者の選択に合理的基準があったとは認め難いと判断した。
男性は勤務評価書で勤務成績・態度の不良は指摘されていなかった。また、指導記録や懲戒処分記録も存在せず、一貫して賞与が支給されており、会社側が主張する「勤務成績・態度」も解雇の理由にならないと判断した。
これらの判断により、男性の解雇は客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とは認められず、無効と結論づけられている。この判決は、たとえ外資系企業であっても、そして年収数千万円を超えるような高給が支払われていたとしても、恣意的な解雇が許されないことを明確に示した意義あるものといえるだろう。
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