芸術的な黒板アートを20分で仕上げるとなると、GAHAKUはやはり美術経験者が多いのではないか? 石井さんは「GAHAKUはアート・美術経験者ばかりということではないんです」と話す。
「面接時に『絵が得意ですか?』というようなことは聞いていません。黒板アート作成の業務は、もともと絵が得意なパートナーに『描いてみない?』と提案することもあれば、絵が得意ではないパートナーがスタバの黒板アートをきっかけに目覚めることもあります。入社の動機が『オファリングボードを描いてみたい』という人も一定数いますが、絵がうまい人を積極採用しているわけではないのです」(石井さん)
評価のポイントは「スターバックスらしさを表現できているか」「商品のおいしさを正確に伝えているか」の2点が大きい。画風や商品の描き方、時短テクニックや構図のセンスを総合的に判断し、凝った装飾などは評価においてあまり考慮していないという。
スタバでは黒板アートを描く際のルールを明確に設けていない。商品名や価格などの情報を正しく伝えること、法的に順守すべき決まりを守ること以外は、各バリスタが“自由”に描くことができる。構図、描き方を自由に選択しながら、一人一人が「スタバらしさ」を表現する。GAHAKUの作品は、商品の描き方だけではなく「スタバらしさ」の表現においても、全国の従業員が“お手本”にしているようだ。
同社独自の調査によると、入店して真っ先に目が行く場所は「オファリングボード」という調査結果が出ている。石井さんは「手描きだからこそ、より視線を集められているのではないか」と話す。
「オファリングボードを見る時間は一瞬です。パッと目が行くこと、数秒で伝えたいメッセージが伝わること、遠くから見ても分かることがとても大切です。手描きはやはり目を引くので、親和性が高いと考えています。また、節電などのエコへの呼びかけは、手描きで描いた方が押しつけがましくなく、温かさのある言葉で伝わると考えています。各店舗で客層に合わせた描き方で伝えてくれているため、冷たい印象が軽減し、お客さまの『一緒にやろう』という気持ちの醸成にもつながっていると考えています」(石井)
「もちろん、画一的なもの、統一してきれいなポスターなどを本社が制作して提供することもできます。手描きを辞めればバリスタの手も煩わせないので、人件費削減などにもつながるはずです。あえて手描きにこだわるのは、お客さまに伝えたい思いやあたたかさが手描きのほうがより伝わるということにあります。また、働きがいの観点でも、一人一人のバリスタが心から自分の居場所と感じて、輝けるような場所・機会を提供したいという思いが強いため、今後も“手描きのあたたかさ”にはこだわっていきたいです」(石井さん)
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