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ロックフェラー家当主が設立した「海を守る組織」 日本支局トップに聞く“違法・無報告・無規制の漁業”はびこる乱獲と密漁

» 2022年12月15日 07時30分 公開
[今野大一ITmedia]

 米国を代表する財閥ロックフェラー家。スタンダード・オイルやシティグループなどの創始者を輩出し、現在でも世界の経済界に強い影響力を有している。

 そのロックフェラー家の当主で、ロックフェラー・キャピタルマネジメント取締役のDavid Rockefeller, Jr.(デビッド・ロックフェラー・ジュニア)さんが2004年に設立した海洋保護を目的としたNGO団体がある。「セイラーズ フォー ザ シー(SFS)」だ。世界での会員は3万人を超える。

photo ロックフェラー家の当主で、ロックフェラー・キャピタルマネジメント取締役のデビッド・ロックフェラー・ジュニアさん(撮影:乃木章)

 ヨットレーサーとして米国代表も務め、海を愛してきたデビッドさんは、慣れ親しんできた海の環境が悪化していると知り、18年前にSFSを設立した。

 「私は一人のセイラ―(船乗り)として、こうした状況を変化させたいと思い、SFSを設立しました。同じセイラ―たちに情報を提供したいと思ったからです」(デビッドさん) 

 そのSFSの日本支局を率いているのが井植美奈子理事長兼CEOだ。デビッドさんは井植理事長兼CEOとの出会いを語る。

 「SFSを設立して数年後に、ニューヨークで井植さんと初めて会いました。妻のスーザンと日本に来日し、井植さんと話しているうちに日本でSFSの活動をすることを思い付きました。井植さんもこのアイデアに共感してくれて、設立を決めました」

photo デビッド・ロックフェラー・ジュニアさん(左)と、スーザン・コーン・ロックフェラーさん(撮影:乃木章)

 SFSの活動の柱は、企業や自治体を通した「ブルーシーフード」の普及だ。ブルーシーフードとはサステナブルな魚介類、つまり(1)資源量が比較的豊富な魚種で、(2)生態系を守りつつ、(3)管理体制の整った漁業による魚種を指定し、「積極的に食べよう」と推奨する魚のことを指す。

 漁業の資源管理を取り巻く状況は厳しさを増している。最近では12月10日に、国際自然保護連合(IUCN)がクロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビのアワビ3種を絶滅危惧種(レッドリスト)に選定した。その要因として、乱獲や密漁、気候変動による生息環境の悪化を挙げている。

 今後、野生動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」で議論する際、この結果が科学的な根拠となり、取引が制限される可能性も否定できない。そうなればビジネスの世界にも大きな影響を与え得るのだ。

photo ニホンウナギは2014年に「絶滅危機」と評価された。その後、日本は養殖池に入れる量の上限を設定。管理を強化した(筆者撮影)

 こうした状況をSFSはブルーシーフードによってポジティブに改善しようとしている。SFSは全国版のブルーシーフードガイドに加えて、三重県に続き、今年7月には東京都と包括協定を締結。都は「ブルーシーフードガイド東京都版」を発行した。都との協働により、水産庁が発行した資料だけでは見えてこない地域のデータを活用した、きめ細かな評価を可能としている。

 さらにSFSは、このブルーシーフードを事業の中で推奨していく企業や自治体を「ブルーシーフードパートナー」として認定し、資源への好影響を広めようとしているのだ。

photo Blue Seafood Guideの一部(セイラーズ フォー ザ シーのWebサイトより)

 SDGsでは17ある目標の14番目に「海の豊かさを守ろう」を掲げている。企業経営者にとって、海洋保護をはじめとした環境への取り組みは避けられなくなった。今後、企業として取り組むべきことは何なのか。井植理事長兼CEOに聞く。前編では主に法改正に至った経緯をお届けする。

photo 井植美奈子(いうえ・みなこ) 一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局理事長兼CEO。米国ロックフェラー家当主のディビッド・ロックフェラーJr.が設立した海洋環境保護NGOであるSailors for the Seaのアフィリエートとして日本法人を設立。水産資源の持続可能性を示す『ブルーシーフードガイド』、海洋スポーツの環境基準『クリーンレガッタ』等のプログラムの開発と運営による啓発活動や政策提言を通して、海洋環境の改善から持続可能な社会の実現を目指す。京都大学大学院博士後期過程在籍中。専攻は地球環境学・環境マネジメント。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。Forbes Japan25ans オフィシャルコラムニスト(撮影:河嶌太郎)

インバウンドのブランディングや集客に直結

――SDGsの目標には「海の豊かさを守ろう」が掲げられています。海洋保護はかつて企業の社会貢献(CSR)という文脈だった部分もありますが、現在は先頭を切って取り組むべき事項へと認識が変わりました。こうしたことに取り組むことが企業価値の向上につながるのでしょうか。

 ESGと同じように、企業の存続にかかわってくる問題にシフトしています。

 確かに日本の一般消費者の意識をそこに向けるまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。一方、企業にとってのインバウンドに目を向けた時に、SDGsやESGといった持続可能な社会に向けた企業価値は、ブランディングや集客に直結します。この点が大事だと私たちも考えています。

 特にEU各国はサステナビリティに対して非常に敏感です。パリのホテルなどはどこもSDGsを起点にさまざまな基準を変えていますからね。米国でも同じ状況になっています。

 米国を見ると東海岸と西海岸、中西部ではかなり意識が違います。ただ国全体としては、世界のリーダーとしてサステナビリティを重要視する風潮が高まっています。

 日本企業も欧米からの顧客を取り込もうとした時や、食物を海外に輸出する際に、環境への配慮は非常に重要な要素になってきています。

photo SDGsでは17の目標の14番目に「海の豊かさを守ろう」を掲げている(写真提供:ゲッティイメージズ)

ロックフェラー「活動を日本でもやろう」

――SFS設立の経緯と、この11年間の歩みを教えてください。

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