日本の上場企業は、3862社です(22年12月21日時点)。そのうち、1000億円以上の企業価値がある企業は727社です。この規模の企業ですと、機関投資家との対話が株価形成上重要です。海外機関投資家からも、海外企業との比較のために人的資本の開示を求められることが多くなるでしょう。
一方、上場企業で時価総額100億円以下の企業も、1524社存在します。時価総額100億円以下となると、アナリストカバレッジが少ないケースも多く、機関投資家とのコミュニケーションも、頻繁とまではいかなくなります。
さらに、未上場企業においては、一部の成長著しいベンチャーを除き、機関投資家とのコミュニケーションはかなり少ないと考えて良いでしょう。
つまり、上場していて時価総額が大きい企業と、未上場の中小企業では当然ではありますが「開示」について興味関心の度合いが異なります。上場していて、中型株以上の会社ではホットで、それ以下の会社だと関心が薄くなります。
これが機関投資家とだけの対話に限定するならば、未上場企業や上場企業でも小型株ならば人的資本開示はスルーしても良いのかもしれません。「上場していて、企業価値が高い企業だけの問題だ」と捉えるのも無理のない話です。
しかし、「労働市場との対話」の観点から考えた場合、そうも言っていられないようです。
どんな企業も、継続し成長していくには、優秀な人材の獲得が重要です。近年では、人材の流動化が高まり、転職が当たり前になってきました。転職する際に参考とする情報は、年収などの条件面に加えて、口コミの存在も非常に大きくなってきています。例えば、今どき初任給が開示されていない新卒求人はありません。労働市場への情報開示は、年々進んできたと言えます。
23年3月期以降、上場企業を中心に有報での開示が義務化されます。これは、労働市場における企業の情報が格段に増えるということに他なりません。独自性がある情報や、比較可能性がある情報は、転職者にとって判断材料となり得ます。
日本の人口は減少の一途を辿っており、人材獲得は今後より困難になっていきます。
となると、「人的資本の開示」は上場企業だけのものでもなく、労働市場への情報供給量が格段に増し、未上場企業であってもその影響は計り知れない、と私は思っています。全ての企業にとって、「人的資本に関する開示」は影響があるものではないでしょうか。
そのためには、離職率や人材教育といった(A)企業価値評価の視点で比較できる指標だけではなく、(B)の独自指標も、各社の特色が出せるのでとても重要と言えると思います。
先述したように、人的資本の「開示」と「活用・改善」はセットです。開示するだけではなく、「どうやって人的資本を伸ばすのか」という視点がなければ、機関投資家だけではなく労働市場との対話が成立しにくくなることが懸念されます。
それでは、企業はどのような項目を開示すべきなのでしょうか。次回はこのテーマを扱います。
1999年にソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第一期生としてインターネット産業に関わる。ブロードキャスト・コム(現 Yahoo!動画)の立ち上げに参加。その後ネットイヤーグループ創業に参画。 2001年経営コンサルティング会社コーポレイトディレクションに入社。 2005年ネットエイジグループ(現UNITED)執行役員。モバイル広告代理店事業の立ち上げにかかわる。2005年Fringe81株式会社を創業、代表取締役に就任。2013年3月マネジメントバイアウトにより独立。2017年8月に東証マザーズへ上場。2017年に発見大賞という社内人事制度から着想を得たUniposのサービスを開始。2021年10月に社名変更をし、Unipos株式会社 代表取締役社長として感情報酬の社会実装に取り組む。2022年10月に著書「心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100(ダイヤモンド社刊)」を刊行。
Unipos株式会社は、組織を変える行動を増やし組織課題を解決するHRテック事業として「ピアボーナスUnipos」の開発・販売を行う。コーポレートミッションは「感情報酬を社会基盤に」。
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