裁判の概要は下記です。
判例のように、名誉毀損を争う場合には懲戒処分の無効を訴えるケースが一般的です。そもそも懲戒処分が無効であれば、本人の名誉を回復する必要も出てきますから、まずは丁寧な事実確認と就業規則に則った手続きが必要となります。
さて、このケースでは、裁判所は懲戒処分を有効と判断したうえで、名誉毀損についても以下の通りXの主張を退けました。
被告は、本件掲示につき就業規則58条に基づくものと主張するところ、同条は懲戒処分について、「原則としてこれを公示する。」と定めており、本件掲示は同規定に基づくものと解される。
懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるのでない限り何ら不当なものとはいえないと解される。そして、証拠(中略)によれば、本件掲示は、被告の社内に設置された掲示板に、原告に交付された「懲戒」と題する通知書と同一の文書を張り出す形で行われ、掲示の期間は発令の当日のみであったことが認められ、懲戒処分の公示方法として何ら不相当なものとは認められない。
したがって、本件掲示が名誉毀損を構成するとの原告の主張は理由がない。
注意喚起のために懲戒処分を公表することは、“著しく不相当な方法”でない限り、名誉棄損には当たらないということになります。では、どういう方法が該当するのでしょうか。判断に迷いますが、国家公務員の懲戒処分の公表指針が参考になります。
この指針にあるように、公表はあくまで再発防止が目的のため個人が特定されないように配慮する必要があり、その範囲であれば名誉棄損になる可能性は低いと言えるでしょう。
一方でその原則を超えて、あえて個人名を公表する場合、仮に懲戒解雇が有効であっても名誉毀損と判断される場合もあります(東京地方裁判所判決 昭和52年12月19日)。
(前略)一般に、解雇、特に懲戒解雇の事実およびその理由が濫りに公表されることは、その公表の範囲が本件のごとく会社という私的集団社会内に限られるとしても、被解雇者の名誉、信用を著しく低下させる虞れがあるものであるから、その公表の許される範囲は自から限度があり、当該公表行為が正当業務行為もしくは期待可能性の欠如を理由としてその違法性が阻却されるためには、当該公表行為が、その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合、すなわち、公表する側にとつて必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用い、かつ被解雇者の名誉、信用を可能な限り尊重した公表方法を用いて事実をありのままに公表した場合に限られると解すべきである。
そして、この理は、不法行為たる名誉毀損の成否との関係では、当該被解雇者に対する解雇が有効か無効か、解雇理由とされる事実の存否には係わらないものというべきである。
よって、見せしめ的な発想での個人名公表は控えることが賢明です。仮に公表する場合は、それが再発防止のためにやむを得ない行為であったことを合理的に説明する必要があります。
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