米国では、バイデン大統領が8月9日に署名してCHIPS法が成立した。これにより米国内の半導体の生産や開発を支援する補助金527億ドル(約7兆5000億円)が使われる。米国がこれほど巨額の補助金を拠出することを決めたのは、中国に対する経済安全保障の観点から、「半導体の開発では負けられない」という強い決意が、民主、共和党を含めた超党派で合意ができたためだ。
米国では23年以降、国家戦略としてこの補助金を活用して半導体回路の加工線幅2ナノの先を見据えた「ビヨンド2ナノ」の開発にまい進する。
米国はCHIPS法で、支援を受ける企業に対し、今後10年間、28ナノ以降の半導体製造にかかわる中国向け投資の禁止を発表していた。さらに、10月7日に新たに半導体関連の輸出禁止項目を発表した。それによると、18ナノ以下のDRAM、128層以上のNAND、3ナノ以下の回路や基盤を設計するEDAツールは輸出できなくなる。このため、杉山氏は「中国の先端半導体製造は遅延するのではないか」とみている。
EUは11月末に半導体の開発支援のために、公的資金110億ユーロを投資する。その他、公共と民間合わせて430億ユーロ(約6兆円)を投資することが決まり、12月の閣僚理事会で承認される見通しだ。
成立するのは23年になるが、インテル、STマイクロエレクトロニクス、インフィニオン、グローバルファンドリーズなどの半導体メーカーはこの補助金を当てにしてEUで新工場の建設を計画している。
EUとしては最新鋭の半導体の開発を進めることによって、半導体技術で世界をリードする狙いがある。また隣の韓国では30年までに最新鋭の「K半導体」を開発する計画を推進している。
今年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻したことも、半導体のサプライチェーンに大きな影響を与えた。
杉山氏は「コロナ禍の半導体不足から、半導体サプライチェーンにおいて、製造は、台湾・韓国依存が高いことが認識されました。これに加えて、米中対立による地政学的なリスクから、日本も自国で必要な半導体は、自国で生産する必要がある、という自国に回避することが前提にあると思います。この理由は、経済安全保障のリスクマネージメント要因が大きいとみています」と分析する。
10月に開催した中国共産党大会で習近平国家主席は、台湾統一を在任中の公約に掲げ、「必ず実現する」と述べて、統一のためには武力行使も辞さないとの姿勢を明らかにした。このことはロシアのウクライナへの軍事侵攻と相まって、日本にとって不気味なリスク要因になる。
「台湾有事」になれば、半導体生産トップで台湾本社を構え、日本や米国で新工場を計画しているTSMCも大打撃を受けることは必至で、その意味でも、日本は自国で半導体を生産できる体制作りを急ぐ必要がある。
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