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日の丸半導体「ラピダス」の勝算 “周回遅れの惨状”から挑む「最後のチャンス」人材の確保がカギ(4/5 ページ)

» 2022年12月23日 09時59分 公開
[中西享ITmedia]

「TSMCの後は追わない」

 「ラピダス」の社長に就任した小池淳義社長は、日立製作所などを経てサンディスク社長、ウエスタンデジタルジャパンのプレジデントなどを歴任してきた人物だ。

 小池社長は基本的な方針として「TSMCの後は追わない、同じ土俵で勝負しない」と話している。汎用タイプの半導体を大量に生産するのではなく、「ラピダス」に出資してくれた企業が欲しがっているカスタムメイドの半導体を少量多品種で量産したい方針だ。

 しかし、今の日本の技術水準では、半導体の回路幅が30〜40ナノレベルのものしか作れないといわれている。「ラピダス」ではこれを一気に2ナノの最先端半導体の量産を目指している。果たして、一足飛びでその水準までレベルアップができるかどうかも気になるところだ。

 杉山氏は「世界の技術水準に追い付くためには、最先端レベルまで追い付かなければ、半導体業界では戦っていけない」と指摘する。

 一方で、「チップレット」と呼ばれる、1つのチップの中に1種類の半導体ではなく、複数の半導体を搭載させて効率の良いチップを作る新しい技術トレンドの製品が展開されてきている。この製法が「ラピダス」の製造過程で実用化できれば、利用者のニーズにあった半導体を量産できるようになるため、可能性が広がるとみられている。

「存在感増す日本」

 日本の半導体自体のシェアは落ち込んでいる。その一方で半導体製造装置や半導体材料では日本のシェアは高く、杉山氏はこう指摘する。

 「製造装置や材料に強い日本と組まなければ最先端の半導体もできないため、実はいま、世界の半導体業界で日本の存在感が増してきている。今回の同省が、ラピダスを含む次世代半導体構想を発表したことについて海外の専門家は驚いている。『日本は半導体で何をしようとしているのか』などの問い合わせが相次いでいる」

 半導体の生産能力のシェアを見ると、韓国が21%、台湾が20%、中国が19%、日本が19%、米国が11%だ。アジア地域での製造能力は大きいが、今後は経済安全保障の視点から自国内で半導体サプライチェーンを確保しようと、生産設備の自国回帰の傾向がみられるという。

 一方で半導体製造装置の供給メーカーをオーナーシップ別にみると、米国が38%、日本が32%と、日米が断トツのシェアをキープしている。日本メーカーでは東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENなどがある。今後は韓国や中国がシェアを高めるだろうが、それには相当な時間が必要だと分析している。

 また半導体ウエハーなど半導体材料市場では日本は56%を占めて圧倒的に強い分野を堅持している。代表的なのが半導体のシリコンウエハーで世界首位の信越化学工業だ。

 半導体を効率的に製造するためには、こうした材料メーカー、製造装置メーカーの協力が不可欠だった。そのため、この分野のシェアの高い日本の存在感が増してきているといえるわけだ。

photo 日本の装置、材料メーカの状況(経済産業省「半導体戦略(概略)」より )

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