寿司の新トレンド "回らない"けど高級すぎず レトロで新しい「カタカナスシ」とは「町の寿司屋」を現代風にアップデート(3/3 ページ)

» 2022年12月29日 08時00分 公開
[山路力也ITmedia]
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 運営元企業のHASSIN(大阪市)は大阪を中心に数々の飲食店を展開しており、大阪でもいち早く寿司居酒屋業態を展開してきた。これまでの寿司居酒屋をさらにブラッシュアップさせた同店は、既存店舗との差別化を図るべくターゲットをミドル層を中心に据えて、そこから老若男女へと広がりを持たせる戦略に出た。

「鮨割烹 のの」の外観(提供:同店)

 「大阪ではコロナ禍の最中に空前の赤酢ブームが巻き起こり、寿司店の中でもこれまでにないジャンルの融合や、細分化が過熱しています。その中で『のの』では、寿司をはじめ料理はあえて最高級の素材をそろえるのでなく、気さくに手ごろでおいしいものを食べてもらえる、“町寿司の原点”を強調することをコンセプトにしています。若い人からは『少し背伸びして行きたい店』として、ご年配の方からは『このクオリティーにしては安くて行きやすい店』、ミドル層からは『職場の仲間や奥さんと頻繁に行きたい店』――。このように、それぞれのお客さまに合わせた存在になれるよう、圧倒的なメニュー数で楽しんでもらおうと考えました」(HASSIN 代表取締役社長 里良太氏)

 里氏が話すように、「のの」のメニューはとにかく種類が多い。50種類近くある寿司メニューの多さもさることながら、例えば本マグロは握りの他にもお造りや小鍋で提供したり、活き締めアジは天ぷらでも提供したりなど、バリエーションも豊富。その他に一品料理として居酒屋メニューも充実しており、幅広い客層に受け入れられているのが分かるメニュー構成だ。若者をターゲットにしたような派手なビジュアルではないものの、器も含めて美しく盛り付けられた大人のための上質感を見事に演出している。

寿司以外にも天ぷらなどを充実させ、多彩な年代の多様なニーズに対応する(同前)

 「カタカナスシのベースとなっているネオ大衆酒場の店では、SNSでの映えを重視する上で、需要が圧倒的な『肉』と『寿司』で過剰となるくらいメニューがエスカレートしていきました。例えば、最初は『肉寿司』がトレンドだったのが『こぼれ、はみだし系』のメニューが増え、その後は『合わせ盛り』といった形で華々しさや高級さを追求する店が増えました

 しかし、食の流行はいつか落ち着き、変化するタイミングが来ます。今回のカタカナスシ、寿司居酒屋ブームによって、寿司のイメージが『高級』から『安い』に変化するのではなく、『身近』になったのは、うれしいことですね」(里氏)

 現在の握り寿司は、江戸時代の末期に屋台で流行したものが原点といわれる。ファストフードとして庶民が屋台で気軽に楽しんでいた寿司は、時を経て格式の高い高級なものとなったり、カジュアルなスタイルの回転寿司へと変わったりしていった。その中で新たに生まれたカタカナスシと呼ばれる業態は、多くの消費者にとって新たな寿司の楽しみ方として有効な選択肢の一つになっていくだろう。

筆者プロフィール:山路力也

フードジャーナリスト・ラーメン評論家・かき氷評論家。『Yahoo!ニュース個人』オーサー/『Voicy』パーソナリティ/著書『トーキョーノスタルジックラーメン』他/YouTube『YAMAJI CHANNEL』『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信チャンネル』/飲食店向けオンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』運営/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら、テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で活動中。飲食店のプロデュースやコンサルティングも数多く手掛けている。【オフィシャルサイト


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