「元気な若手」ばかり可愛がる上司 人材が定着しない組織に欠ける視点(2/2 ページ)

» 2024年01月04日 08時00分 公開
[児島功和ITmedia]
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サポートを受けやすい若手の特徴

 それでは、上司から仕事におけるサポートを受けている若手社員には、どのような特徴があるのだろうか。ジョブパフォーマンスという観点から見たのが図4である。

 「会社から求められる仕事の成果を出している」に対して「あてはまる(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した者を「ハイパフォーマー」と定義した。反対に「あてはまらない(あてはまらない・あまりあてはまらない)」と回答した者を「ローパフォーマー」とした。

 見えてきたのは、ハイパフォーマーほど上司からサポートを受けているということである。上司がハイパフォーマーの若手社員に目をかけ、サポートをする。すると、その若手社員は上司からのサポートを受けてさらにパフォーマンスが上がるようになるという好循環があるのではないだろうか。

 あるいは、上司がサポートすることでハイパフォーマーとなった若手社員もいるだろう。対照的に、上司からサポートを受けていない若手社員はパフォーマンスが上がらず、悪循環に陥ることもあると考えられる。

図4:上司からサポートを受けている割合(ジョブパフォーマンス別・%)(出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」より筆者作成)

「元気な若手」を好む上司が見落とすもの

 次に、仕事を通じて感じている感情の観点から仕事における上司のサポート実態を見たのが図5である。

 働いているときの自分は「元気がいっぱいだ」に肯定的に回答している若手社員のほうが、否定的に回答している若手社員よりも上司からのサポートを受けている。すなわち、上司は仕事に対してポジティブな感情を抱いて働いている若手社員を積極的にサポートしている可能性がある。元気がない若手社員に上司が手を差し伸べることができていないとすれば、その若手社員は離職することもあり得る。

図5:上司からサポートを受けている割合(感情別・%)(出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」より筆者作成)

 それでは、ハイパフォーマーで元気がない若手社員はどうであろうか。ハイパフォーマーに限定して見たのが図6である。

 先述したように、若手社員のハイパフォーマーはローパフォーマーよりも上司からのサポートを受ける傾向があった。しかし、ハイパフォーマーであっても、元気がなければ、上司からのサポートは減っている。職場にいる若手社員全員がハイパフォーマーかつ元気いっぱいで働いていればよいのかもしれない。

 しかし、そのようなことはありえない。入社してまもない若手社員が慣れない仕事で疲れを感じたり、不安を感じたりすることで元気がないのは不自然なことではない。こうした悩める若手社員に上司のサポートがなかなか届いていない可能性がある。

図6:上司からサポートを受けている割合(ハイパフォーマーの感情別・%)(出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」より筆者作成)

まとめ

 本コラムでは「働く10,000人の就業・成長定点調査」の調査結果(23年)に基づき、民間企業の若手社員(正社員)と上司サポートの関係を明らかにしてきた。

 本コラムのポイントは、次の通りである。

  • およそ6割の若手社員が上司から仕事におけるサポートを受けていないか、サポートを受けているかどうかについて「どちらともいえない」と感じている。この傾向は企業規模や業種によって大きな違いはない。
  • ジョブパフォーマンスの観点から上司のサポート実態を見ると、ハイパフォーマーの若手社員のほうがローパフォーマーの若手社員よりも上司からサポートを受けていた。
  • 仕事を通じて感じている感情の観点から上司のサポート実態を見ると、上司は仕事に対してポジティブな感情を抱いている若手社員に積極的にサポートをしている。また、ハイパフォーマーであっても、元気がないと、上司からのサポートは減っていた。

 浮かびあがってきたのは、ハイパフォーマーで元気に働く若手社員は、上司からのサポートを受ける機会が多いという現状である。

 繰り返しになるが、若手社員全員がハイパフォーマーということはあり得ない。入社して間もない若手社員が疲れや不安から元気がなくなり、期待通りのパフォーマンスが発揮できないのは珍しいことではないだろう。しかし、上司が適切な形で手を差し伸べれば、若手社員はこれまで以上に成長する機会が広がるだろう。

 もっとも、近年問題になっているように管理職にある上司もまた厳しい状況に置かれていることも忘れてはならない(※5)。管理職にある上司の窮状が若手社員へのサポートの少なさとして表れている可能性もある。そうであれば、上司が若手社員の定着と育成にどのように責任を果たせばいいのかという問題だけではなく、職場全体(組織開発)の問題ということになる。

※5:パーソル総合研究所「中間管理職の就業負担に関する定量調査」(23年11月6日アクセス)

 本コラムが若手社員の定着と育成を考える上での一助になるだけではなく、組織開発を巡る問題を考える一助になれば幸いである。

児島功和

日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。

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