「60代で転職」も 働く高齢者が増加、当事者のリアルな声は?(2/3 ページ)

» 2024年01月05日 08時00分 公開
[金本麻里ITmedia]

なぜ定年後も働くのか

 では、シニア就業者個人の働くことについての意識は、どのように変化しているのだろうか。

 本調査の結果では、各年代のシニア就業者の「働き続けたい年齢」は、17年以降変化が見られなかった(図2)。「働き続けたい年齢」の平均は、60代前半では70歳前後、60代後半では73〜74歳と横ばいで推移している。また、分布にも、大きな変化は見られない。

シニア 図2:シニア就業者の「何歳まで働きたいか」回答結果(17〜23年)(出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」)

 つまり、シニアの就業率は高まっているが、各年齢層において「高齢になっても働きたい」と就業継続に対して意欲的になるシニアが増えているわけではないことが分かる。

 シニアの就業率の上昇は、雇用機会の拡大によって働き続ける機会が増えたことや、健康寿命の延伸で働きたいが働けない状況が減ったことなどが要因と考えられる。ただし、就業率が高まったことで、これまで働かないことを選択してきた比較的就労意欲が低い層も働くようになったため、長く働きたい個人の増加を打ち消している可能性もある。

 なお、20代、30代の若手就業者の「働き続けたい年齢」の変化を見ると、はっきりと低下傾向が見られる(図3)。老後年金問題が騒がれたことは記憶に新しいが、将来不安とは裏腹に、早期リタイアしたいと考える若手が増えているようだ。「生涯現役」を望む割合も減少している。

シニア 図3:若手就業者の「何歳まで働きたいか」回答結果(17〜23年)(出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」)

「60代の転職」の増加

 シニア就業者の就業行動の変化も見えてきた。シニア就業者の過去1年間の転職率は18.2%であり、30代の就業者に次いで多い水準となっている(※3)が、その転職理由が変化しているのだ。

 60代での転職の理由を見ると「契約期間の満了(定年退職等)」が減少し、「給与の不満」が増加している(図4)。おそらく、65歳以降も継続雇用する企業が増加したことで、契約期間満了による転職ではなく、継続雇用時の給与額の低さなどへの不満から、転職するシニア就業者が増えているのだろう。

※3:厚生労働省「令和4年雇用動向調査」より

シニア 図4:転職理由の変化(19〜23年)(出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査2023」)

 定年後再雇用では、給与が大幅に削減されるものの業務内容にはこれまでと変化がないといったケースも多く、不満を持つシニア就業者が少なくないことが指摘されている。また、このような処遇や、職場におけるエイジズム(※4)によって、シニア就業者自身が「期待されていない」と感じ、モチベーションを保つことができていないという問題も指摘されている(※5)。

※4:年齢に対する偏見や固定概念(ステレオタイプ)、それに基づく年齢差別を指す
※5:石山恒貴「定年前と定年後の働き方 〜サードエイジを生きる思考〜」

 シニア就業者の継続雇用が広がる中、シニア就業者のモチベーションを維持し、生産的な形で雇用を続けることがより重要になると考えられる。

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