レトロ趣味? 貧困? 話題の「風呂なし物件」に若者たちが注目し始めた、本当の理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2023年01月27日 05時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

「貧困」だけが原因ではない?

 「1世帯に1つの浴槽」という文化が定着していなかった昭和初期から昭和中期ごろには、銭湯や大浴場付きの集合住宅で入浴機能がまかなわれていた。日本の入浴事情がそんな外風呂メインの状況から内風呂主体の方式へ変遷したのは、高度経済成長期に入り、家計の購買力が向上したことも大きな要因の一つである。

 こうした経緯を踏まえると、ある意味令和から昭和へ逆行するような昨今の動きは、やはり物価高などによる生活費を減らす必要性から生じた――と見る方が実情に近いのではないかと思いたくなる。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

 とはいえ、風呂なし物件が検索されているのは、データを追う限りでは大都市圏に顕著で、土地に余裕のある郊外や地方都市ではあまり見られない傾向になっている。また、検索ボリュームの増加についても、あくまで「風呂なし」という1単語について検証したものであるため、絶対的な人数が多いことを示すわけでもない。これらの事実を踏まえると、世間一般として風呂ありの物件すら選べなくなるほど貧困が深刻化している、と結論付けるのは早計だろう。

風呂なし物件で浮くコスト

 筆者は、趣味や貧困ではなく、「単身世帯の増加」と若者の「コスパ志向」に風呂なし物件が合致していることが、ポイントではないかと考えている。

 結論からいえば、単身世帯の場合は銭湯に入っても自宅の浴槽に入っても金銭的な負担があまり変わらない。むしろ銭湯の方がコストパフォーマンスが高い可能性すらある。試しに、毎日入浴する場合と、毎日銭湯に通う場合で、簡単にコストを計算してみたい。ただし、ここから試算する数値はあくまでも大まかな計算であることは承知おきいただきたい。

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