こうした大学フィルターは会社ぐるみの仕組みであるが、採用担当者の中には独自のフィルターをかけている人もいる。その一つが“AOフィルター”と呼ばれるものだ。文部科学省の「2022年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」によると、私立大学の入学者のAO(総合型選抜)の入学比率は11.6%、推薦が42.6%で計54.2%を占める。
AO・推薦入試では、本人が大学に入って何をやりたいのか、具体的なビジョンがあることを重視し、学力だけでは分からないポテンシャルを評価する。
しかし、採用担当者の中には「基礎学力が低い」とみなし、面接でAOや推薦入学かどうかを聞き出して、落とす人もいるという。つまり一般入試で合格したという事実だけを評価し、入学後の成長度合いを評価しないという学歴至上主義であり、その構造は大学フィルターと変わらない。
いずれにしてもなぜフィルターをかけるのか。前出の金融業の人事担当者は正直にこう語る。
「大学名で分けるのはある程度意味があると思っています。偏差値の高い大学に入るということは、少なくとも受験プロセスとして受かるための学習をしているわけで、社会人になってもそれと同じことができるだろうと見ています。逆に偏差値の低い大学に入った人よりも勉強のやり方は知っている。大学フィルターは会社にとって必要な人材を採るための確率論としても有効だと思っています。もちろん入口の目安であって、実際に採るかどうかはその後の選考で判断します」
つまり、難易度の高い大学の合格という目標達成力に加えて、そのプロセス修得した学習の仕方の方法論を知っているからだという。
また、前出の中堅物流会社の人事担当者はこう話す。
「学生にどんな大学でどんな講義を受けてきたかというところは見ています。なぜかと言えば、大学のランクによって提供される講義は、偏差値が高い大学ほど講義の内容も高度であり、そこで揉まれてきているか、いないかは経験として大事だと思っている。そこで得た経験や知識は企業に入ってもある程度、再現性が期待できると考えています。仮に最終選考で5人残り、誰か1人を落とす場合、大学の偏差値の低い学生を落とすことになるでしょう」
もちろん、偏差値の高い大学の学生の全てが有能というわけではなく、企業に入っても成果を出すとは限らない。
採用活動では本来、自社のビジネスの方向性やビジョンに合致した人材を探し出す工夫が求められる。だが、実際は効率や合理性の関係から、こうしたフィルターを使わざるを得ない状況となっているようだ。こうした実態を聞くと、現在の採用・選考基準の画一性と貧しさを感じずにはいられない。
溝上憲文(みぞうえ のりふみ)
ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。
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