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「Z世代が育たない」「いつまでおだてればいいの?」と悩むリーダーに欠けている“覚悟”河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)

» 2023年02月10日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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 そして、もう一つ。「褒めて育てるリスク」についてお話ししておきます。

 褒められるのは誰だってうれしいもの。褒められることで救われることもあるので「褒めるときは褒める」ことは必要です。

褒めることは重要だけれど、難しい一面もあって……(提供:ゲッティイメージズ)

 しかし、「豚もおだてりゃ木に登る」とばかりに、家庭や会社で、親子や上司部下の間で、やたらめったら「褒める」を称賛することは、逆に、自尊心や自己肯定感が低く、他者評価に依存する「自己過信する若者」を量産するリスクを高めます。褒めることは諸刃の剣なのです。

 例えば、自己肯定感。最近は自己肯定感という言葉が頻繁に使われ、「子どもの自己肯定感を高めるには褒めて育てよ!」といった言説や情報があふれていますが、褒めるだけでは自己肯定感は高まりません。

 自己肯定感は、「どうやって叱るか?」が重要で、その際、信頼と共感を示すことが肝心なのです。例えば、成績が悪かった子どもを頭ごなしに叱ったり、やたらに励ましたりするのではなく、「あなたは頑張ったのにうまくいかなかったね」などと、頑張りを評価(=共感)した上で、本人にうまくいかなかった原因を考えるように仕向ける(=相手への信頼)。自分と向き合い、自分で決める経験を積み重ねさせることで高まっていきます。

 そもそも自己肯定感は、「いいところも悪いところも含めて自分を好きになる感覚」であり、自分自身を積極的に受け入れること。ありのままの自分と折り合いをつけることです。

 つまり、上司が部下と関わる際に、「なんでもかんでも褒める!」は短期的な効果はあれど、長期的にはネガティブな側面が大きいのです。要求をいちいち受け入れていると、彼らの「生きる力」「ストレスに対処する力」さえも失われていきます。

 上司は上司らしく振る舞えばいい。Z世代に迎合する必要はありません。

 大切なのは、相手=部下の意見をきちんと聞き、自分=上司の意見もきちんと伝えること。伝えるには、教える、指導するも当然含まれます。

 そして、「そっか! こうすればいいんだ!」と腑に落ちる経験をさせ、そのときは200%褒めてほしい。部下が小躍りした場面でこそ、上司の褒め言葉は生きます。

 それこそが「共感」なのです。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。


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