クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ルノー・日産アライアンス再始動 内田CEOの手腕が光った池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2023年02月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

再生に至った経緯

 で、ここから相互持ち株についての特例を説明しなければならない。「こういう場合も自社株と同じだと見なしますよ」という例外ケースである。

 ちょっと架空の話をしてみよう。「やまと自動車」と「ガリアモチュールス」という架空の2つの自動車メーカーがあったとする。どこかで聞いたような話だが、ガリアがやまとの株の43.4%を持ち、反対にやまとはガリアの株を15%持っている。

 この場合、ガリアは「やまと株の43.4%を保有する支配的な大株主」であり、実質的にガリアはやまとのボスということになる。やまとがガリアの株主総会で持ち株15%の議決権を行使する時、議決権の使い方をガリアが指図できる可能性が高い。

 その場合、やまとが保有する「15%のガリア株」の議決権は、実質的にガリア自身が持っているに等しい。見なしとしてはほぼ自社株である。それは先に述べたように、一般株主の不利益になるから認められないということである。さて、例え話終了。以下現実の話となる。

 理念としてはそういう意図の法律なのだが、ルールはルール。フランスの法律によって、日産の持つルノー株に対する15%の議決権は、自動的に凍結されてしまって使えない。また日産はルノー株の15%を保有しているので、何らかの方策でルノー株を10%買い増せば、日本の会社法の定める25%に達し、ルノーの議決権を凍結できるのである。ちなみに成立要件は、フランスでは持ち株の40%、日本では4分の1(つまり25%)となっている。

 言葉を選ばずに言えばルノーはきっかけがきっかけだったため、本来なら相互に敬意と尊重の精神を持ちながら結ぶアライアンスを、日産と深く調整することなく、一方的に札束で無条件降伏させてしまった。それは確かに千載一遇のチャンスだったし、機を見るに敏な「よい買い物」だったはずが、現実はそうならなかった。あまりに一方が優越的なアライアンスは、結局内部摩擦を激しく生んで、機能しないということを試す、壮大な実験になってしまったわけだ。

 だから、この会見は冒頭から異例だった。登壇者4人が互いに感謝の言葉を投げかけ合い、ルノーのルカ・デメオCEOに至っては、このアライアンスのリバランスに奔走した全てのスタッフへの感謝まで述べたほどである。

全スタッフへ感謝の意を述べたルノーのルカ・デメオCEO

 裏返せば、その時点で、アライアンスはもはや行くも帰るもならず、巨大な負債になりかけていたということである。ほぼ死に体だったそれを、各社の代表が知恵を出し合い、丁寧に信頼関係の修復からやり直して、再生に至ったという話だろう。4人の、そして途中からゲストスピーカーとして登場した日産のアシュワニ・グプタCOOの口ぶりを総合すると、日産はこのアライアンスを脱退するという意思表示をしたらしい。それはルノーにとって極めてまずいことになる。

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