クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ルノー・日産アライアンス再始動 内田CEOの手腕が光った池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2023年02月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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日産がアライアンスを「抜けたい」と考えた理由

 欧州で供給できるサプライヤー1社で構わないルノーに対し、日産はインフレ抑制法で保護主義的にシフトした米国では米系メーカーと、共産党の締め付けが厳しい中国では中国系メーカーと、LCAに基づく国境炭素税を睨む欧州向けには、おそらく欧州系のバッテリーサプライヤーとそれぞれアライアンスを組まなくてはならない。複雑なルノー・日産アライアンスで手足を縛られたままでは身動きができない。だからアライアンスを抜けたいと日産は望んだのだと筆者は推測している。

 ルノー側からすれば、いま日産に抜けられては困る。特に電動化技術については日産頼りであり、業績が芳しくない今、それを独自開発で賄うのは難しいのだ。

 ここに至って、ルノーはかつて手に入れた優越的なアライアンス上の立場を手放す覚悟をした。質疑応答において、記者からの「43.4%から15%への投資額引き下げは、アライアンスの解消へ向けたステップなのか?」と問われたルカ・デメオCEOは「過去の話はもう話したくありません。忘れてほしいのです。未来のことを話しましょう。過去において両社は多くの持ち株を保持しながら、お互いに何も言えなかった。つまり意味がなかったのです。今回のリバランスは43.4%から15%への投資額引き下げではなく、むしろ影響を与えられない0%から、15%への引き上げという未来志向の話だと受け取っていただきたい」と述べている。

 同時に、ルノー傘下の電気自動車専業メーカーとして設立されたアンペアの話、あるいは中国の吉利汽車(ジーリーとの提携)を今回のアライアンスのリバランスと絡めて、深読みするのはやめてほしいとも発言した。ルノーも日産も三菱もそれぞれ、新しい時代の変化に向けて、それぞれが自社に適切な手を自由に打ち、必要な時にお互いに助け合うという未来に向けた新しいスタートの時であると説明した。

 ジャン=ドミニク・スナール会長が、「今までのアライアンスは間違っていた」と明言したことからも、今回のリバランスにおいて、各社が真剣に過去に向き合い、問題を是正してあらたな局面に入ったことがうかがえる。

ルノーのジャン=ドミニク・スナール会長

 優越的な立場にあったルノーに、これを手放す覚悟をしてもらうのは極めて大変な作業であったと思う。相互に向け合った自衛のための銃口を、どちらが先に外すのか。あるいは外したあとで足元を掬われるのではないかという声は、どの社内でもおそらく多かったはずである。

 その中で、反目を解消し、信頼を醸成し、ルノーに過剰な権利を放棄させるところまで持っていった日産の内田CEOの手腕は光って見える。四半世紀にわたって、真の意味で形成することができなかったアライアンスに、本来必要な信頼と敬意を、しっかりと築き直した功績は大きい。

 登壇者全員がお互いの仕事に感謝の言葉を述べるところから始まったこの会見は、かなり抜本的な部分でアライアンスの再設計が行われ、各社の自由裁量権が増え、同時にリスペクトを持ち合う関係へと進んだ。大きな意味を持つものだったと筆者は思っている。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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