多くの中小企業で「なんとか10人採用しました。でも10人離職しました」ということが発生しています。そもそも採用は事業計画に必要な労働力の確保が目的ですから、採用と合わせて定着率の向上という視点も欠かせません。
採用は他社との争奪戦であるため自社の取り組みが必ずしも実を結ぶわけではないです。ただ、離職防止については社内で完結する要素が強いため、採用よりも取り組みやすく成果も出やすいでしょう。
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」の概況によると、退職理由のトップ5は以下のようになっています(調査の概況を編集)。
離職理由においても入社時の企業選びと同様に賃金に関する項目がトップでなく、「労働条件」「仕事内容」「将来性」「人間関係」などが同じ水準で上位を占めています。また、このようなアンケートで出てくる「賃金の低さ」の裏には、金額そのものでなく、同僚よりも低いという評価に対する不満が横たわっているため、賃金を上げれば定着率が上がるという発想だけではうまくいかないことも少なくありません。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」によると、9割以上の人は退職の決断に至るまで悩む時期がありますから、その段階で相談に乗れる体制を作ることが大事です。
悩みの相談相手として勤務先の上司、先輩社員がトップに挙げられています。よって、定期面談制度やメンター制度の導入を通じて、気楽に悩みを相談できる環境を整えておくことで人間関係を原因とするような離職の抑制や、定着を阻害する情報の把握・改善を図ることができます。
結果的に離職する場合も「ちょっと話があります……」というサプライズ退職でなく、計画的に進められるでしょう。後任の採用や引き継ぎの時間を確保できるだけでなく、円満退社となるので数年後に復職する可能性も残されています。
人事部門の業務は今まで管理することが中心でしたが、今後はこのように労働環境を整備して従業員の定着を高めていくことが重要なミッションとなるでしょう。
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