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人的資本経営に必要なのは「経営が分かる人事」 人手不足でも取り組むための3つのポイント連載「情報戦を制す人事」(2/2 ページ)

» 2023年02月17日 08時30分 公開
[奈良和正ITmedia]
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ポイント(1)人事管理の成果を定める

 1つ目のポイントは、自社の人事管理上の成果を定めることです。人事管理の成果にはさまざまなものが考えられますが、中でも重要と考えられるものは下記の通りです。

戦略遂行に必要な従業員の充足と必要な活動の促進

 まず目的を明確にし、それに沿った戦略や各部門戦略の遂行に必要な仕事、役割、能力、行動などを定義し、その定義にあてはまる従業員を、採用、育成、配置などの人事管理を通して充足させます。

 人事管理では、戦略遂行に必要な従業員の定め方として大きく下記の2つの方法があると考えられます。

各部署やポストに必要な仕事内容と能力

例)職務定義、職種・等級別の役割定義、ジョブディスクリプションに記載されている内容など

全社共通で必要とされる役割行動

例)〇〇wayや、valueなどで表現されるような行動規範

 例えば、多くの外資系企業ではあらかじめ企業内のポストが決まっています。一方で、各ポストの役割があいまいなケースが多い日系企業の多くでは、企業に属する従業員としての行動規範が決められています。

 昨今、ジョブ型雇用に関する議論が加速し、ジョブディスクリプションに記載されるような仕事内容と能力の定義が重要視される傾向にありますが、どちらも重要な考え方です。

 『戦略的人的資源管理論』でも経営戦略と成果の間を橋渡しする要素として従業員の役割行動が着目されており、特別なタスク、業務遂行に必要な能力だけでなく、全社共通の役割が着目されてきたことからも重要だといえます。

従業員の気持ちを高める

 従業員の気持ちや状態を測るにはさまざまな切り口がありますが、本記事では下記を総称して「気持ち」として表現しています。

  • 従業員満足度
  • モチベーション
  • ワークエンゲージメント、従業員エンゲージメント
  • コミットメント(帰属意識)

 自社で重要視する従業員の気持ちを定義し、それらを向上させることが、生産性やイノベーションの機会の創出、成長スピードの向上につながり、さらに経営上の成果につながるという考え方です。

 人的資本の情報開示の流れもあいまり、自社が重視する従業員の「気持ち」をエンゲージメントと総称し定義してエンゲージメントサーベイを実施し、毎年の結果を人事管理の成果として統合報告書などに掲載する企業が増えてきました。

各部門における人事面での重要な問題の解決

 経営戦略や部門の戦略を遂行する上で、各部門は、それぞれモチベーションの低下や人材不足、スキル不足など、人事面での問題を抱えています。その中で特に対処すべき問題を特定し、対処することが人事管理の成果だとする考え方です。

 経営陣や各部門と共に重要な人事面での問題のKGIを設定します。そして期末に経営陣、各部門長などと問題解決できたか確認をすることで達成可否を判断し、また成果が得られたかを把握します。人事面での問題は、人事データの分析結果から明らかに皆が納得するものではありません。人事データの分析結果のような客観的な事実も用いながら経営陣や現場管理職、現場との話し合いの過程で問題の共通認識がなされた段階で初めて人事面での問題として認定することが必要でしょう。

ポイント(2)人事管理内での整合性を意識する

 2つ目のポイントは、人事管理内での整合性を意識することです。

 各人事管理の整合性が高いほど、人事管理が目標として掲げていた成果は達成しやすくなります。一方で変化を起こしたい場合、既存の人事管理の整合性が高いことが変化を阻害する方向に働きます。

 そのため、今の人事管理全体がどのように関連しているのか、その整合性を意識することが戦略人事の実践上で重要です。デイビッド・ウルリッチ氏が提唱した「戦略的人的資源管理」の中では水平適合という考え方で表現されています。

 例えば近年、キャリア自律施策の一貫として、キャリア研修を採用する企業が増えてきました。キャリア自律施策は、従業員が自身のキャリアを真剣に考え、よりエンゲージメントを高く自発的に仕事に取り組み、成長スピードを加速させて生産性をあげることなどを期待して採用することが多いです。

 キャリア自律施策は、キャリア研修のみではなく社内公募制度や社内副業など、キャリア選択の機会を提供する人事施策とセットで実施されることがあります。これは、配置転換が企業の指示のみとなると、向上したキャリア自律心が下がったり、企業を見限り転職したりする可能性があるためです。

 これまで「企業や組織が意図した人材配置を効果的に行う」というベクトルで人事管理の整合性が高い企業では、キャリア自律心が育ちにくい環境といえます。

 そのような中で従業員の啓蒙としてのキャリア研修を導入しても、キャリア自律心を生かす機会が既存の業務に限定され、十分な効果を発揮できないことがあります。これは、旧来の人事管理の整合性が高いままで、新しく導入したキャリア自律施策としての整合性が低いためだといえます。

 このように、特に新しい目的のもと新しい人事施策の導入を考える場合は、既存の人事管理の整合性との整合性について考慮することが、施策の成功確率を上げるうえで重要です。

ポイント(3)人事部の役割を他組織との関係の中で考える

 戦略人事を実践するには、経営陣や現場部門長と、自社が抱える問題、対策を議論し、一緒に自社の人事戦略を策定、遂行する役割が必要です。この役割を人事部が持つ場合、その役割の一部を担う人をHRBP(Human Resource Business Partner)と呼ぶことがあります。ただ、必ずしもHRBPという組織が必要なわけでもありません。HRBPと名付けなくても、下記のように役割を遂行している企業もあります。

  • 「部門人事」という名称で同じ役割を実践する
  • 「人事課 配置班」として配置など特定の人事管理に特化して各部門長と折衝する役割を持つ
  • 従業員数が少ない企業では人事部長がHRBPの役割を担っている
  • 現場に部門内教育の機能を持たせた組織がある場合は、人事と共同しながら戦略人事の役割を遂行する

 このように、戦略人事を実践する役割には、経営陣や現場部門長と、自社が抱える問題、対策を議論し、一緒に自社の人事戦略を策定するなど、さまざまな形が考えられます。

 大切なことは、どの組織がどのような役割を担っているのかを整理し、強化すべき役割を明らかにすることです。人事部だけで全てを実施するのではなく、さまざまな組織と共同し、総合的に略人事の役割を遂行することが重要だと考えます。自社の状況に合わせて取り組んでいきましょう。

著者プロフィール

奈良和正 株式会社Works Human Intelligence WHI総研

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2016年にWorks Human Intelligenceの前身であるワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。

株式会社Works Human Intelligence

大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1,200法人グループへの導入実績を持つ。

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