そこで日本のエコノミストたちがよく言う「会社がバタバタ倒産して失業者が増えて阿鼻叫喚の地獄」みたいなことにはほとんどならない。「全国一律」なので、事業者が「賃上げ分を価格に転嫁できない」なんてことがないからだ。
都市部の大企業だろうが、地方の下請け企業だろうが、あらゆる事業者が強制的に賃金を引き上げられるので、値上げをしても誰も文句を言わない。つまり、日本のように、弱い立場の事業者が「人件費を抑えた安売り競争」をしなくてもいいのだ。
もちろん、賃上げに耐えられず倒産する会社もあるが、そこで働いていた人は死ぬまで失業者なんてことはなく、ほどなくして次の職場で働くだけだ。しかも、全国一律で最低賃金の引き上げをしているので、新しい職場はほぼ間違いなく前の職場よりも高収入になる。結果、生活水準が下がることはない。
ちょっと前には「最低賃金を大幅に引き上げたら韓国の二の舞だ!」と騒いでいる人がいたが、韓国もそこまでの地獄になっていない。
確かに韓国経済も日本同様に低迷しているが、少なくとも最低賃金を引き上げたことで、労働生産性は向上して20年には初めて日本を追い抜かした。日本経済研究センターの試算によると、個人の豊かさを示す一人当たり名目GDPは今年、日本を追い抜かす見込みだという。実際、ちょっと前に福岡の博多に行ったら、街は若い韓国人観光客であふれていて、日本人観光客よりもお金を使っていた人もいるほどだ。
このように諸外国では「全国一律の最低賃金の引き上げ」が極めてスタンダードな経済政策なのだが、なぜか日本では「左翼勢力が唱える反政府的な政策」というイメージが広まっている。
実際、立派な肩書きの経済学者なども「最低賃金を上げたら日本経済はおしまいだ」という謎の終末論を唱えており、それを受けて政府も最低賃金は年に1回、10円、20円とチビチビしか上げない。
その結果、G7の中でも賃金がダントツに低く、OECD加盟国の中で唯一の実質賃金が下がるという異常事態が起きている。
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