世界で「最低賃金1500円」は当たり前なのに、なぜ日本人は冷ややかなのかスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2023年03月07日 09時22分 公開
[窪田順生ITmedia]
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そろそろ目を覚ますべき

 これの何が最悪かというと、経済に必要不可欠な「産業の新陳代謝」が起こらないので、日本経済がさらに低迷してしまうことだ。

 他の国ならばとっくに倒産・廃業しているはずの中小零細企業が税金によって強引に「延命」されてしまう。経営者とその家族はハッピーなので、自民党候補者に票を入れるだろうが、中小企業で働く人々は低賃金が固定化される。

 そこで「最低賃金を全国一律で1500円に」と叫んだところで、中小企業経営者が支える自民党政権は動けないので、賃上げを促すという名目で税金をバラまくしかできない。こうなると、子どもや孫の世代の未来は真っ暗だ。たたでさえ、少子化で社会保障の負担が上がっているところに加えて、ゾンビ中小企業の事業資金まで払わされる。頭のいい子どもたちは、この国で子どもを産み育てるのは「無理ゲー」だと気付いて続々と海外へと逃げ出すはずだ。

最低賃金をアップすればデメリットだけでなく、メリットも(提供:ゲッティイメージズ)

 こんな地獄をつくらないためにも、日本でもいい加減そろそろ一般の人も目を覚ますべきだ。消費税をゼロにしても、大企業の法人税を上げても焼石に水で、疲弊した日本経済は甦(よみがえ)らない。

 日本は伝統的に、「労働者は経営者の付属品」という考え方が強い。だから、どんなに無能な経営者でも税金や法人税の免除などの優遇措置で倒産しないようにすれば、「おまけ」である労働者も最低限の暮らしができるという「経営者の延命政策」を続けてきた。

 その結果、日本は世界的にも異常なほど倒産が少ない国になったが、それと引き換えに、常軌を逸して低賃金労働が定着した「安いニッポン」にもなった。これを続けていてもハッピーなのは、中小零細企業の経営者とその家族だけだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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