「リーマン級」の賃金減が到来 日本の賃上げを阻む「130万円の壁」問題古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2023年03月10日 05時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 ここに追い打ちとなるのが、介護保険や雇用保険といった社会保険料の増額だ。4月納付分の介護保険料率は1.64%から1.82%に引き上げられ、過去最高となる。00年度の0.6%からついに3倍となり、雇用保険料率も4月から0.2%増の1.55%となる。

 健康保険も、東京をはじめとした一部の協会けんぽ支部が料率の引き上げを予定している。例えば、協会けんぽ東京支部では4月納付分から健康保険料率が10.00%になる見込みだ。前月比で0.2%程度高くなり、ついに2けたの大台に達する。

 消費税のような、ある種分かりやすい税目は、1%引き上げるだけでも大騒ぎとなるが、給与から天引きされ、内容が分かりづらい社会保険料の増額は意外と騒ぎにならない。このような社会保険料は事業者が半分負担するため、見た目上は労働者の負担感も半分になる点も影響しているだろう。

 とはいえ、事業者の負担が増えれば、結局は賃上げペースを緩める形で労働者側に皺寄せがくることにもつながりかねない。逸失し得る賃上げ幅を踏まえると、やはり社会保険料の増額は労働者が割を喰らう可能性が高いというべきだろう。

 それ以外にイレギュラーなものとして今後注目なのは、岸田政権肝いりの「防衛増税」だ。実現すれば、法人税が4〜4.5%ほど上乗せされる見込みで、ただでさえ資金繰りに悩む経営者に追加の税金がかかってしまう。岸田文雄首相は23年の年頭会見で「インフレ率を超える賃上げの実現」を経済界に訴えたが、賃上げというアクセルと増税というブレーキを同時に踏むような采配について、どれだけの経営者が納得できるかは疑問だろう。

130万円の壁、物価連動にすべき?

 最後に、賃上げについて企業視点だけではなく、労働市場の仕組みからも見てみたい。日本は賃上げが起こりにくいとされているが、その一因に「130万円の壁」がある。

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