「CX-60」好調のマツダ EV時代にエンジン車へこだわるのはなぜか鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(4/4 ページ)

» 2023年04月28日 07時00分 公開
[鈴木ケンイチITmedia]
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挑戦することで成長してきたマツダの、次なる挑戦

 この5チャネル体制を確立するため、80年代後半のマツダは次々と新型車を投入します。ユーノス・ロードスターを筆頭に、「アンフィニ・RX-7」、3ローターの「ユーノス・コスモ」、ガルウインドを持つ軽自動車「オートザム・AZ-1」、1.8リッターのV6エンジンを搭載する「ユーノス・プレッソ」など、個性派ぞろいでした。

car ユーノス・コスモ(公式Webサイトより引用)
car オートザム・AZ-1(公式Webサイトより引用)

 ところがバブル崩壊により、日本は不景気に様変わり。3倍近い売り上げ増どころではありません。マツダの経営は大不振になり、93〜97年には5年連続の赤字となってしまいます。そこで96年から、マツダはフォード傘下となって、またしても再建の道を歩むことになったのです。

 フォード傘下の一員としてマツダは、グループ内の各車へエンジンを供給するなどして、息を吹き返します。また、「デミオ」のヒットも助けとなりました。苦しい中、ロータリー・エンジンを搭載する「RX-8」も2003年に生まれます。

car デミオ(公式Webサイトより引用)
car RX-8(公式Webサイトより引用)

 ところが、08年のリーマン・ショックにより、親会社のフォードが大打撃を受けました。その結果、マツダはフォードから独立することに。独立後の足元もおぼつかない11年には東北大震災が発生し、マツダは08年から11年まで4年連続で赤字に陥ってしまいました。

 そんなマツダを救ったのは、次世代技術である「スカイアクティブ・テクノロジー」であり、「魂動」と呼ぶデザイン・コンセプト、そして「一括企画」と呼ぶモノ作り革新でした。そこから生まれた「CX-5」「CX-8」「マツダ3」はヒットして、現在のマツダの好調を支える土台となっています。

car スカイアクティブ・テクノロジーをフル採用したCX-5(公式Webサイトより引用)

 そして、さらなる飛躍のため、マツダは新しいラージ商品群を投入。その先駆けとなるのが昨年秋に登場したCX-60です。FRレイアウトの新しいプラットフォームだけでなく、新型の直列6気筒ディーゼル・エンジンまで新調しました。大きな投資を行いましたが、ヒットモデルとなれば十分なリターンが望めます。ただし、現在の自動車業界は「EVシフト」というのが大きなトレンドです。この先、エンジン車がなくなっていくと考えられる中、新型エンジンを開発することは、まさに挑戦といえるでしょう。

car SUV市場において、ラージ商品4車種を2023年までに導入予定(公式Webサイトより引用)

 現在のCX-60による挑戦・好調は、過去の大失敗の直前の姿にもオーバーラップします。もちろん、そんなことは現在のマツダも承知のことでしょう。「過去とは違って、今回は成功を!」そんな気概で臨んでいることは間違いありません。

 そもそもマツダは、挑戦することで成長してきたブランドといえます。厳しい目標、高い壁があるからこそ、ロータリーエンジンが生まれ、スカイアクティブ、魂動デザイン、一括企画が生まれました。そして、CX-60を筆頭とするラージ商品群は、これまでマツダが戦ったことのない高価格帯のクルマです。成功するには相当に高い壁を超える必要があります。だからこそ、ラージ商品群の成功を、そしてもう一つ大きくなった未来のマツダを期待するばかりです。

筆者プロフィール:鈴木ケンイチ

1966年9月生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく“深く”説明することをモットーにする。


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