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トヨタ、ホンダ、日産「増益と減益を分けたもの」 大手3社の決算をじっくり解説池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/8 ページ)

» 2023年05月15日 08時52分 公開
[池田直渡ITmedia]

トヨタは「過去最高売上」も、4年ぶり減益

 さて、トヨタから解説に入っていこう。決算としては増収減益となった。まずは外回りの数字をチェックする

 連結販売台数(対前期比):882万2000台(107.2%)

 営業収益(対前期増):37兆1542億円(5兆7747億円)

 営業利益(対前期増):2兆7250億円(マイナス2706億円)

 営業利益率(対前期増):7.3%(マイナス2.2ポイント)

 当期利益(対前期増):2兆4513億円(マイナス3987億円)

営業利益の増減要因(出典:トヨタ自動車)

 増減の内容はどうなっているかを見ていく。同社の発表資料のうち、左端のグレーの柱が前期実績、右端の赤い柱が当期実績だ。左側から、為替の変動で1兆2800億円の差益が出ている。それに対して「原価改善の努力」ではマイナス1兆2900億円で、完全に為替差益を吹き飛ばしてしまった。この内訳は原材料価格の高騰に直撃されたサプライヤー各社を守るために、積極的に仕入れ価格の値上げに応じたことが大きい。

 その支払増は1兆5450億円に上る。ただし例年通り、サプライヤーと共同でものづくり改革も進めており、資材の高騰を2550億円押し返している。つまりサプライヤーへの下払い増加には応じつつ、サプライヤーの加工過程や検品過程などの見直しで可能な限り合理化を進めたことが見て取れる。トヨタによれば、例年この原価改善は3000億円を目安に行っているが、今回は、その一部をサプライヤーと折半にすることで、還元している。その結果が2550億円という数字に表れている。

 次の「営業面の努力」では6800億円のプラスを積み上げた。内訳を見ると、「台数・構成」が400億円、「金融事業」では750億円のマイナス。「その他」では販促費などの低減によって7150億円のプラスを計上している。

 トヨタの場合、俯瞰的に見て非常に分かりやすいのは、全体は基本的に平常運転だったと思われる点だ。ありていに言えばいつも通りの成長をほぼやり遂げている。そこに付帯的特例として、原材料費高騰分がサプライヤーへのケアとして大きくマイナスに働き、ほぼその分を為替差益で補っている。補いきれなかった分だけ利益が落ちている。

 全体としては「増収減益」だが、その減益の理由は上で述べた通り明確で、原材料市況に連動する以上、いずれ局面は変わり急に回復することが予想される。そもそも減益とはいっても営業利益率は7.3%とほぼ教科書通りの理想値を示しており、むしろ前の期の9.5%が高すぎたと言っていい。

 毎度のことだが、トヨタはあきれるほど強い。

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