クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタ、ホンダ、日産「増益と減益を分けたもの」 大手3社の決算をじっくり解説池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/8 ページ)

» 2023年05月15日 08時52分 公開
[池田直渡ITmedia]

日産は販売台数減にもかかわらず「増収増益」

 販売台数(対前期比):330万5000台(マイナス14.7%)

 売上高(対前期増):10兆5967億円(2兆1721億円)

 営業利益(対前期増):3771億円(1298億円)

 営業利益率(対前期増):3.6%(プラス0.7ポイント)

 当期利益(対前期増):2219億円(64億円)

 日産の決算は増収増益である。ただ、台数のマイナスはホンダ以上に厳しい。日産もまた中国と米国に軸足を置いているので、この2つのマーケットが崩れると、勝ち目がなくなる構造はホンダと同じはず。しかもホンダ以上の台数落ち込みの中でどうやって増収増益に持ち込んだのか?

 日産の場合、前々期までが極めて深刻な厳しさだったので、比較対象のハードルが低い。その結果、プラスに持っていくのが割と楽なのもあって、売上、利益、利益率ともに積み上げることができた。そこは一度落ちて、登って行く者の強みである。特に内田社長体制になって以降の日産は、各マーケットに高い商品力の新型車を継続してしっかりと投入できているので、それらが売れさえすれば、一気に巻き返せる環境は整っている。

米国市場での実績(出典:日産自動車)

 例えば、米国マーケットでは4台の新型車を投入して戦っているが、日産の説明によれば、セグメントシェアで良い勝負を収めつつ、実際に台当たり売上高を大きく伸ばしている。比較対象年度を前期ではなく前々期に置くあたりがいかにも日産の決算資料らしいと苦笑いが出るところ。要するにそのころまではデビュー年度の古い型遅れモデルで戦っていたので、比較すれば現行モデルがより光って見えるという演出だ。

 さはさりながら、実際それだけのモデルを歯を食いしばって数多くリリースしてきたのも日産自身なので、別に人の褌(ふんどし)で相撲を取っているわけではない。やるべきことをちゃんとやってきたのだ。

 筆者は、新型車を出さないとどうにもならないということを、日産の決算記事を書くたびに言ってきたのだが、内田社長の就任以降は、ようやくそんな指摘をしなくても戦えるクルマがラインアップされてきた。車両の開発にどのくらいの期間がかかるかは知っているので、内田社長の就任以前からちゃんと準備を進めていたのは理解しているが、臥薪嘗胆の結果が製品のリリースとして現れたのが社長交代以降であった以上、とりあえずそれ以降の出来事として扱うしかない。

中国市場での実績(出典:日産自動車)

 中国市場では今のところシルフィ一本槍なのが苦しいところだが、今、経済の先行きが不安定な中国にあまりに優先的にリソースを投入するのはおすすめできない。ダットサンプロジェクトの悪夢が蘇るかもしれないが、だったらその分はASEAN攻略に力を入れた方が良い。あれは仕掛けのタイミングが早すぎただけだ。

 平均して国民が豊かとは言い難いASEANに投入するモデルとしては、日産の持つe-POWERはおそらくなじみが良いはずで、今回の会見の中で発表されたe-POWERユニットのICE並の低価格化計画も、おそらくはそこを狙ったものと思われる。

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