大塚「おにぎり ぼんご」はなぜ人気なのか 休日は6時間待ち握らない(4/5 ページ)

» 2023年05月22日 08時44分 公開
[小林香織ITmedia]

クレームはありがたいもの

 新潟出身の右近氏は、20歳で上京して「ぼんご」のおにぎりに魅了されたという。24歳で初代店主の右近祐氏と結婚、店で働き始めた。最初こそ皿洗い程度にとどまっていたが、職人が倒れたため右近氏もおにぎりを握るように(「ぼんご」のおにぎりは実際は握っていないのだが、ここでは「握る」と表現する)。

壁に飾られた写真からは、「ぼんご」の歴史を感じる

 「お客さんの目の前で握るのはプレッシャーでしたし、熱いご飯を握るのは想像を絶することでした。本格的に握り出したのは30歳ごろから。当時のお客さんは全員常連さんで、『代わりに握ってあげようか』とやさしく声をかけてくれる人もいれば、『お前の味噌汁は世界一まずい』『ご飯がやわらかすぎる』とけなす人もいました」

 なかなかにハードなクレームだが、「文句を言うお客さんは、ありがたい存在。お客さんに育ててもらった」と右近氏は振り返る。

 「黙って残す人は二度と来てくれないでしょうけど、怒って文句を言う人は成長を期待してくれているのだと思います。あのクレームがあったから、ここまでこれたのかもしれない」

開店前の店内で「明マヨクリームチーズ」をいただいた。温かい状態だとおいしさが増す印象で、ご飯の温かさが家庭のおにぎりを連想させた

 多くのクレームをありがたく受け取ってきた右近氏だが、何を言われても信念として貫いたのが、上述した”握らない”手法だった。「空気がいっぱい入ったやわらかいおにぎりが一番おいしい」という主張は、一貫して変えていないという。

 「数十年前は、夜に酔っ払った職人さんたちが多く来店していました。酔っているから、やわらかいおにぎりをボロボロに崩すんですよ。『何で、こんなにご飯がやわらかいんだ』と文句を言いながら。でも、今では『おにぎりは、やわらかいほどおいしい』と言ってくれる人が出てきて、信じてやってきてよかったと思いますね」

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