このスマートロックの普及に関する話は、日本企業に大切な示唆を与えます。企業や経営でイノベーションの必要性はますます高まっているという声をよく耳にします。日本でイノベーションというと、「技術革新」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
ですが、ビジネスのイノベーションで大切なのは、市場を創造することです。最先端の技術を生み出しても、顧客に欲しいと思ってもらえなければ普及することはありません。普及に必要なのは、革新的であることだけでなく、顧客が欲しいと思う理由です。つまり、どんな便益を顧客にもたらしてくれるかということです。
例えば、パナソニックは近年、スマート家電の開発と普及に力を入れています。「スマート冷蔵庫」「スマート洗濯機」「スマートテレビ」「スマート体重計」……。生活家電から美容・健康関連の家電まで、ありとあらゆる家電のスマート化が今や可能です。
パナソニックホールディングスの本間哲朗副社長は「家電がスマート化するという新規性では売れない」と指摘しています。つまり、大事なのは、スマート家電の性能ではなく、どんな価値を提供できるかです。
ただ、スマート家電の普及が最も進んでいるとされる中国においても、その究極の顧客価値はまだ見出されていないそうです。顧客価値の理解はそれほど難しいのです。
日本企業のイノベーション力が低下しているという声を聞きますが、私はそうは思いません。日本企業は素晴らしいイノベーションを生み出せる能力をまだまだ秘めていると思います。
一方で、技術革新にばかり目を向けていては、世界との競争に勝てません。新しいテクノロジーがどのような顧客価値を創造できるのかも、同じくらい考える必要があります。まさにマーケティングが大切なのです。
一橋大学大学院准教授、日本マーケティング学会理事。
日本ロレアル、ボストン・コンサルティング・グループに勤務した後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士(MBA)、同博士後期課程(DBA)修了し、博士(経営学)を取得。
京都大学大学院経営管理研究部ならびに京都大学デザインスクールの特定講師、特定准教授を経て、現職。
経済産業省「グローバルサービス創出研究会」、「おもてなし経営企業選」、「物価高における流通業のあり方検討会」委員、東京女性経営者アワード審査委員およびアドバイザーなどを歴任。
消費者行動やブランド戦略を専門とし、主著に「イノベーションの普及における正当化とフレーミングの役割」(白桃書房、2013年)などがある。
現在は「Live News α」(フジテレビ系)に経済ニュースのコメンテーターとして出演中の他、日本経済新聞の「Think!」にも専門家として投稿している。(株)ローソンならびにスタンレー電気(株)の社外取締役も兼務している。
公式サイト:教員紹介ページ
Twitter:@SatokoSuzuki11
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