なぜ、新卒の応募者数が数倍に? 熱海の老舗旅館が本気で取り組んだDXの全貌業務改善(6/6 ページ)

» 2023年06月20日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]
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新規事業にもチャレンジ

 さらには、既存の旅館事業のみならず、古屋旅館としては200年ぶりの新規事業となる、飲食事業を熱海市内にオープンしました

 「当社の行動指針の中に“必要な投資を厭わない:今後数十年・数百年と古屋旅館が存続するために、目先の利益に捉われず、先々の利益を考えて必要な投資を行っていきます”という項目があります。コロナ禍で集客が減る中での大型設備投資には当然ながらリスクも伴います。しかし、私としてはコロナ禍が影響する数年のリスクに捉われず、10年、20年、50年、100年先にある古屋旅館の未来、熱海の未来、そして古屋旅館のために働いてくれるスタッフの未来を考えて、客室改装や飲食新規事業に投資を行う意思決定をしました」

 こうしたさまざまな取り組みの成果もあり、古屋旅館にはコロナ禍前の水準を超えるお客さまが戻ってきているようです。さらに新規飲食事業としてオープンした和栗モンブラン専門店「和栗菓子kiito-生糸」もオープンから2年以上が経過した今でも連日大行列の繁盛店となっています。

古屋旅館217年ぶりの新規事業となる「和栗菓子kiito-生糸-」
「和栗菓子kiito-生糸-」

 内田社長は、アフターコロナを見据えた事業戦略についてどう考えているのでしょうか。

 「長引いたコロナ禍もようやく収束の兆しがみえてきました。3年間にも及ぶコロナ禍で改めて感じたのは、われわれが事業を行う“熱海”という立地の価値です。観光地ですので、確かにコロナ禍の影響は大きかったですが、一方で首都圏から50分という好立地ゆえにコロナ禍からの回復も早かったように感じます。大変おこがましいことではありますが、今後は古屋旅館のみならず“熱海の価値”を高めていけるようなプロジェクトをどんどん発信していきたいと思います」

 「現在、2号店目の飲食店を計画しています。今までの熱海には無い新しい価値をご提供できるお店を目指しており、この飲食店が多くの方が熱海に来られるきっかけの一助なればと思っています。さらには駅前に新規の物件を取得しました。“熱海で働きたくなる”をコンセプトに、新たな寮の開設も準備しています。熱海を訪れる観光客が増え、そして熱海で働きたくなる人も増える。そんな街づくりに少しでも貢献していければと思っています」

 古屋旅館の行動指針の中に「変わらないために変わり続ける」という一文があります。

 3年にも及んだパンデミックで一変した世の中。不安定な世界情勢、物価高騰、人材不足など、厳しさを増す経営環境の中で社員や会社、大切な人、大切な地域を守り続けるためには「変わらないために変わり続ける」という経営者の覚悟と行動力が重要だということを、今回のインタビューから学びました。

 最後までお読み頂きありがとうございました。

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食業・宿泊業専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとし個人店から大手上場外食チェーン、宿泊業まで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。近年は政府系金融機関をはじめ、東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタント、青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった中小企業支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」「あたらしい飲食店経営35の繁盛法則 V字回復を実現する! (DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。


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