トヨタが反転攻勢に出た? 「手遅れ」と言う人が知らない、真の実力と新たな課題高根英幸 「クルマのミライ」(5/7 ページ)

» 2023年06月29日 08時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

電動化時代の課題は、運転の喜びなのか

 ただし、トヨタが発表した技術の中には、筆者は疑問をもつものもいくつかあった。それはクルマに新しい価値を創造する知能化の中のマニュアルBEVと、オンデマンドで乗り味を変化させる技術だ。

 マニュアルBEVは、バッテリーEVでMT車と同じ操作を再現したもので、実際には変速機やクラッチ機構は存在せず、ペダルやシフトレバーの操作によって、加速感や変速ショックを作り上げることにより、MT車を運転しているように体感させるものだ。

 これは言ってみればバーチャルな運転感覚をリアルなクルマの上で行っているもので、移動しながらドライビングシミュレータを操作しているようなものと言える。

 パワーステアリングは電動化し、スロットルに加えてブレーキもバイワイヤー化された現在では、ECUのセッティング一つで特性をいかようにもできる。それを利用して、さらに室内に響くサウンドや乗り心地も変化させることで、あたかも違うクルマに変化したように感じさせるというのだ。これは現在のスポーツモードを進化させたものとはいえ、いささか稚拙なイメージがわいてしまう。

ベースはレクサスのBEV、RZだが、加速フィールやステアリング特性、乗り心地やサウンドを変化させることでスポーツカー、コンパクトカー、大型ピックアップトラックへと乗り味を変化させる実験車両。このほか、BEVながらMT操作でエンジン車のように走行できるモデルも披露された

 EVであっても大排気量のスポーツカーらしく見せかけることはできても、バーチャルな仕掛けでしかないから、薄っぺらいフィーリングでしかないからだ。しかも燃料や電力、タイヤなどを消費してバーチャルな運転を楽しむのは、この先資源を大切に使う意味でも無駄遣いと見なされかねない。

 バーチャルでできることは、リアルなクルマに盛り込んでも子どもダマしのように思える。バーチャルな運転体験はドライビングシミュレータで十分なのだ。

 逆に言えば、ドライビングシミュレータも、それほど運転体験はリアルに近づいている。今後はますますリアルな運転感覚に近づき、レーシングゲームやドライバーの運転の練習になるだけでなく、スポーツドライビングをエコに楽しむためにも利用されるようになるはずだ。

 クルマ好きの富裕層は、高額な合成燃料を有効に使うために、ガレージにはスーパースポーツとともにドライビングシミュレータを据え付けるのが一般的になるだろう。

 トヨタはEVなどの電動化へ進むだけでなく、クルマに新しい価値を生み出そうとしている。だがしかし、クルマでできることは、すべてに価値があるわけではない。

 クルマでしかできないことには価値がある。クルマですると楽しいことにも価値はあるが、車内の移動中にエンタメを楽しむのは、スマホとイヤホンだけで完結するものだ。トヨタでさえ、新しい価値を見つけるための模索を続けている、と見るべきだろう。

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