“安いニッポン”の救世主になるのか 「価格変動制」はわれわれの心も変えるスピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2023年07月25日 11時11分 公開
[窪田順生ITmedia]

構造的な問題が存在する

 なぜかというと「モノの価格というのは、経済状況によって上がったり下がったりする」という世界では当たり前の話を、渋々ながらようやく日本人が受け入れることになるからだ。

 日本は先進国の中で唯一30年間、平均賃金が上がることなく低成長を続けている。国の豊かさを示す「1人当たりGDP」もそろそろ韓国や台湾に抜かれてしまう。

(出典:ゲッティイメージズ)

 という話になると、脊髄反射で「税金が高いからだ!」「国が財政出動しないからだ!」と叫びたくなる人も多いが、日本以上の税負担で経済成長をしている国など世界にはたくさんある。財政出動に関しても実はこの30年、日本政府は1000兆円以上も負債を増やしている。

 東京2020の「レガシー」とやらで建設された豪華施設が毎年、すさまじい赤字を垂れ流していることが象徴的だが、日本はこれまでもなんやかんやと理屈をつけては多額のバラマキをしてきた。しかし、それは大企業や中小企業という「法人」への臨時ボーナスにしかならず、そこで働く「個人」には届かない。末端の労働者の「賃上げ」にまで還元されないという構造的な問題があるのだ。

 では、どうすれば賃上げできるのか。諸外国がやっている一般的な方法は、中央政府や自治体が物価上昇に伴って最低賃金を大胆に引き上げていくというものだが、残念ながら今の日本では不可能だ。

 日本では諸外国と異なり、「最低賃金なんて引き上げて、中小零細企業がバタバタと潰れたら日本経済はおしまいだ! 気合いと根性で低賃金を乗り切れば、きっとまた日本経済は復活する!」という独特の経済観が広がっているので、政治が最低賃金を引き上げようとすると支持率が急落する。しかも、最低賃金引き上げを阻止したい中小企業の経営者団体「日本商工会議所」は、自民党の有力支持団体なので、機嫌を損ねたら選挙でボロ負けしてしまう。

 つまり、安いニッポンに関しては、政治にはほとんど期待できないのだ。となると、あとは国民が自力で「モノの価格」をあげていくしかない。原料や燃料、そして賃金などのコストを反映させて「適正な値上げ」を受け入れていくのだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.