そういうと「だからこそ、中小企業に税金を景気良くバラまけ」という人がいるが、コロナ禍で飲食店に大量にバラまかれたカネは末端のバイトやパートにほとんど還元されなかった。こうした事実からも分かるように、中小企業にバラまかれた税金は、運転資金か役員報酬など経営者一家の懐に入るだけなのだ。
政治も大人の事情で最低賃金の引き上げに踏み切れない。民間事業者も「値上げするのは悪徳企業」という日本のムラ社会手的な同調圧力が怖くて、価格転嫁ができない。
時折、支持率欲しさで政治がバラマキをしても、経営が苦しい中小零細企業の延命に用いられるだけなので、日本人労働者の7割を占める人たちの賃金には反映されない。
こういう構造的な問題が複雑に絡み合っているので、何をやっても、効果がでない。これが日本社会を覆っている「閉塞感」の正体だ。
しかし、価格変動が社会のニューノーマルになったらどうだろう。ラッシュ時の電車やバスが高くなったり、田舎のファストフードが安くなったりするのが当たり前になれば、社会に「価格とは経済状況によって動くもの」という認識が広がる。そうなると、事業者側も消費者側も値上げに対する心のハードルが下がる。
もちろん、焼石に水だという見方も否めない。ただ、筆者はそれでも価格変動が普及することで、日本人の価格に対するパラダイムシフトが起きるのではないかと期待してしまう。
なぜかというと、この制度が注目されればされるほど、実は日本という国が「国民」をそれほど大切に扱っていないという不都合な真実と向き合わざるを得なくなるからだ。
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