“安いニッポン”の救世主になるのか 「価格変動制」はわれわれの心も変えるスピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2023年07月25日 11時11分 公開
[窪田順生ITmedia]

世界的にも珍しい思想

 ただ、残念ながらこの30年間、われわれはそれができずにいた。

 ご存じのように、日本人は「コスパ」を愛し、「値上げ」を世界トップレベルで憎んでいる国民だ。42年値上げをしなかった「うまい棒」が賞賛されるように、物価上昇が起きようが、不景気になろうが、最初に掲げた「安い価格」を未来永劫ビタッと固定しておくことこそが誠実な商売人、という世界的にも珍しい思想がまん延している。

 だから、そういう同調圧力に屈した事業者は価格転嫁ができない。原料が上がっても値上げをすると客が離れてしまうという恐怖があるので、企業努力でどうにか値上げをしないで乗り切ろうとするのだ。

 大企業の場合はまだいい。効率化やスケールメリットを生かすというまっとうな努力で「低価格」を維持する。しかし、日本企業の99.7%を占めて、労働者の7割が働いているのは中小企業だ。しかもその中で8割ほどが常用雇用者5人以下という零細企業だ。効率化もスケールメリットもへったくれもない。

日本企業の99.7%が中小企業(出典:経済産業省)
労働者1人平均月間現金給与額(1947年〜2022年 年平均、出典:労働政策研究・研修機構)

 では、この日本企業の中で圧倒的な大多数を占める中小零細企業は、あらゆるコストが上昇しているこの世界でどうやって低価格をキープしているのかというと、自分よりも弱い者から奪うしかない。

 そう、自分のところで働いている労働者の賃金はギリギリまで安く抑えるのだ。「不景気でウチも厳しいから、給料は今のままで我慢してくれ」という感じで、何年も賃上げをしないなんてザラだ。

 これが日本の賃金が30年間上がっていない根本的な理由だ。日本人労働者の7割が働く中小企業が、価格転嫁できない。むしろ、労働者が低賃金で「滅私奉公」していることで、どうにか延命している中小企業が山ほどあるのだ。

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