BEVが次世代車の“本流”にならない4つの理由 トヨタ「全方位戦略」で考える(2/6 ページ)

» 2023年07月31日 17時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

BEV普及1つ目の課題「充電時間」

 トヨタが全面BEV化を否定する1つ目の理由は、フル充電に要する時間の問題です。普通充電で1台を満タンにするのに数時間、1時間350kWh・200Vの急速充電でも30分はかかります。ガソリン車が数分で満タンにできることを考えれば、その所要時間がBEV普及の大きなネックになることは確実です。

 ゴーゴーラボ(神奈川県鎌倉市)が運営するEV充電スタンド情報共有サイト「GoGoEV」の調査では、23年6月時点での国内の充電スタンド数は約2万カ所、充電機は約3万3000基ですが、その3分の2以上は普通充電機であり、急速充電機はまだ1万基未満です。早期に国内で大半の自動車がBEVに代われば、急速充電機の設置数が爆発的に増えない限り、慢性的なスタンド大渋滞が想像に難くないのです。

photo 充電中のBEV(提供:ゲッティイメージズ)

 対策としての基本はまず、集合住宅を含め各家庭の駐車場1台に対して、1基の普通充電機の設置です。その上で、外出先で困らないために急速充電スタンドが最低でも今のガソリンスタンド数(約3万カ所)かつ、急速充電の給油機数が1カ所最低5基としても15万基はないと、とても怖くてBEVで遠出はできないでしょう。

 仏AFP通信の記事によると、BEV化の先頭をひた走る中国では既にEV充電機が520万基を超えているとのことですが、これは社会主義体制下ゆえ可能な話。中国のような国は世界を見回してもむしろ少ないのが現実なのです。

 日本経済新聞の4月19日付けの記事では、英国では充電スタンドが不足しているためにBEVを手放す人が増えているとか。豪州や米国のマサチューセッツ州でも似たような動きがみられるとの話もあるようです。

 すなわち、トヨタが示唆する「BEVは脱炭素車のデファクト・スタンダードならず」の視点は的を射たものであり、むしろ現状で急速にBEV化を押し進め過ぎることは、国内のみならず世界的に大きな混乱を招くとすら思えるのです。

BEV普及に経済力の壁 新興国で課題

 充電スタンド問題に関連しては、もう1つ重大な視点があります。それは脱炭素問題が世界共通の課題であるとしても、自動車が性急にBEVに取って代われない新興国独自の事情があるという視点です。

 仮にBEVの価格が下がり次世代自動車のデファクト・スタンダードになれば、先進国では数年間で各家庭に1基の充電ステーションが整うかもしれませんが、経済的水準の低い新興国での対応は至って難しいのです。トヨタが依然としてハイブリッド車(HV)の新車開発にも注力している背景には、新興国からの将来にわたる根強いHVニーズを想定しているからだともいわれています。

 なお、BEVの急速充電を多用すると、車載バッテリーが故障する可能性があるとして、日産自動車は、普通充電を使うよう呼び掛けています。

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