さらに3つ目の理由は、内燃型エンジンからエンジン機能を持たないEVに自動車製造が置き換わることで、自動車業界特有の水平分業ピラミッド構造が大きく崩れてしまうという懸念です。
約3万点の部品で構成されている従来のガソリン車に比べてEVは、3〜4割部品点数が減り、一部は内燃エンジン部品から電気制御部品に取って代わられます。これにより、最先端技術を持つIT企業や電機部品企業との新たな水平分業への移行で、仕事がなくなるまたは激減する下請け企業が出てくることが確実視されています。すなわち全面BEV化は、下請け企業とそこで働く人たちにとって死活問題に直結するのです。
トヨタの場合、連結企業だけでも37万人もの従業員とその家族の生活を支えてきているわけであり、自動車産業の裾野の広さを考えれば、トヨタがもし全面BEVに突き進むならば、とんでもない数の人たちの生活を脅かしかねないのです。
アーサーディリトルジャパンは自社調査で、日本の自動車の9割がEVにシフトした場合、68万人の自動車関連部品製造従事者雇用の1割強にあたる8万人が職を失うと試算しています(日本経済新聞4月8日付けの記事)。豊田章男会長は社長時代からこの点を強く懸念しており、電動化への対応について質問された際にはたびたび「下請け雇用の維持・確保」は重要な課題として強調してもいるのです。
これらの理由からトヨタは、BEVを脱炭素カーのデファクト・スタンダードとしない全方位戦略を、突き進んでいるわけなのです。具体的には、欧米各国から日本つぶしの思惑もあって脱炭素自動車から排除されているHV領域で、充電気で走るプラグイン・ハイブリッド車(PHV)開発を進め、新エネルギー源としての水素活用領域では、燃料電池車としての水素電池車や冒頭にも登場した水素エンジン車など研究にも余念がありません。
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