中国製BEVは今後どうなるか 避けられない現実池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2023年08月21日 08時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

なぜ新旧バブルカーは思うほどの成功を得られなかったのか

 それら新旧バブルカーは、結局のところ“クルマの代用品”に過ぎず、製品として好まれて買われたというよりは、仕方なしの妥協で、他に選択肢がないから使われたことになる。

 “常識を覆す安価”というコンセプトは、天才のみが得られるインスピレーションによる画期的なアイデアではなく、誰でも思い付く当たり前のアイデアであり、部品を外して、あるいはグレードを落としてコストダウンを図る手法は、先行するマーケットでは当然経験済みの話である。

 このあたりは、トヨタがパブリカで大衆車を目指したが、思うほどの成功を得られず、結局上方にシフトしたカローラで成功した例や、前述のBMWがイセッタのライセンス生産で戦後の一時期の経営を支えたものの、戦後復興の機をつかみかねて一転、現在の3シリーズと5シリーズの原点となるノイエクラッセへと大幅に上級移行して、倒産の危機から脱したストーリーを知っていれば想像できる話である。

クルマの1ジャンルとして認められたベーシックカー

 一方で、小さなクルマを全部ひとくくりにはできない。中には歴史的に見て、自動車史に影響を残したクルマもある。ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)の「ミニ」、シトロエンの「2CV」、フォルクスワーゲンの「Type1(通称:ビートル)」、フィアットの「500」といった、バブルカーより一段クラスが上のクルマであり、どれもが耐久消費財として見ても数十年もの使用に耐える頑丈な道具でもあった。

BMCのミニ(1959〜2000年)は英国を代表するベーシックカー。スエズ動乱で石油が高騰することを見越したBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)は、バブルカーではなくまともなクルマをミニマムに作ることを計画、その結果発売されたのがミニである。当時BMC傘下には多数のブランドがあり、ブランド毎に多くの車名とボディタイプが存在する。ちなみに写真のクルマは モーリス・ミニ・マイナー
シトロエンの2CV(1949〜90年)はフランスを代表するベーシックカー。空冷水平対抗2気筒のユニットを搭載するFFレイアウト。40年にもわたって生産されたことからもその人気はうかがえる
フォルクスワーゲンの「Type1」(1941〜2003年)はドイツを代表するベーシックカー。アドルフ・ヒトラーの国民車構想によってフェルディナント・ポルシェが設計したType1は、世界的な大ヒットモデルとなり何と21世紀まで生産が続けられた
初代フィアット500(1936〜55年)はトポリーノの愛称を持つイタリアの国民車で、FRレイアウトの2人乗り。爆発的ヒットモデルとなった
フィアット500(ヌオーバ)(1957〜75年)は初代トポリーノの後継車として登場した大ヒットモデル。RRレイアウトを採用することでミニマムな4人乗車を可能にした

 ただ安いことを目指した商品とは、志が違うものだったように思う。何よりもこれらのベーシックカーは、ミニマムではあっても多くの人がクルマの1ジャンルとして認めるだけの魅力があった。

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