それら新旧バブルカーは、結局のところ“クルマの代用品”に過ぎず、製品として好まれて買われたというよりは、仕方なしの妥協で、他に選択肢がないから使われたことになる。
“常識を覆す安価”というコンセプトは、天才のみが得られるインスピレーションによる画期的なアイデアではなく、誰でも思い付く当たり前のアイデアであり、部品を外して、あるいはグレードを落としてコストダウンを図る手法は、先行するマーケットでは当然経験済みの話である。
このあたりは、トヨタがパブリカで大衆車を目指したが、思うほどの成功を得られず、結局上方にシフトしたカローラで成功した例や、前述のBMWがイセッタのライセンス生産で戦後の一時期の経営を支えたものの、戦後復興の機をつかみかねて一転、現在の3シリーズと5シリーズの原点となるノイエクラッセへと大幅に上級移行して、倒産の危機から脱したストーリーを知っていれば想像できる話である。
一方で、小さなクルマを全部ひとくくりにはできない。中には歴史的に見て、自動車史に影響を残したクルマもある。ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)の「ミニ」、シトロエンの「2CV」、フォルクスワーゲンの「Type1(通称:ビートル)」、フィアットの「500」といった、バブルカーより一段クラスが上のクルマであり、どれもが耐久消費財として見ても数十年もの使用に耐える頑丈な道具でもあった。
ただ安いことを目指した商品とは、志が違うものだったように思う。何よりもこれらのベーシックカーは、ミニマムではあっても多くの人がクルマの1ジャンルとして認めるだけの魅力があった。
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