ではSBI証券と楽天証券の手数料無料化はどんな影響があるのか。まず、株式取引を行うユーザーの多くは、実はそこまで手数料に敏感ではない。「手数料を無料にしても必ずしもお客さまが来るわけではない」(楽天証券の楠社長)のだ。
実際、以前から日本株の売買手数料を完全無料としている証券会社もある。Finatextホールディングス傘下の証券会社スマートプラスが提供する売買手数料完全無料のサービス「ストリーム」だ。
ストリームでは東京証券取引所を使わない立会外取引(ダークプール)を活用し、取引所よりも有利な価格で約定した場合に、有利となった差額の半額を手数料として受け取る形で手数料無料を実現した。18年から国内株、21年から米国株の手数料をゼロとした。しかし個人投資家の間ではそこまで話題になっておらず、利用者殺到とはなっていない。
今回の手数料無料化と、24年からスタートする新NISAをセットで語る声もある。しかし、長期投資を前提としている新NISAでは、つみたて投資枠で個別株は購入できず、メイン商品となるであろう投資信託は、すでにノーロードという形で手数料は無料化されている。正直、手数料が無料になったからといって新NISAにおいてどこまでアドバンテージがあるかは疑問だ。
では短期間に売買を繰り返すデイトレーダーへの影響はどうか。SBI証券、楽天証券ともに1日あたり100万円までの手数料はこれまでも無料だった。完全無料化によって、より高頻度な売買でも手数料が無料になるという利点はある。
一方で、資金効率を求めるデイトレーダーは信用取引を使う場合も多い。そして信用取引においては、両社とも大口優遇プログラムが設けられており、すでに手数料は完全に無料となっている。
さらに若年層の取り込みに向けて、SBI証券、松井証券、岡三オンライン証券、DMM.com証券、auカブコム証券、岩井コスモ証券、GMOクリック証券(27歳以下)は25歳以下の国内株式取引手数料を完全無料化している。
このように手数料完全無料化以前から、各社はさまざまな手数料無料化施策を用意しており、今回の”完全無料化”はその総まとめといえるものだ。完全無料ということでイメージ的なインパクトは大きく、また分かりやすくなった。
ただし、米国株取引については各社ともに手数料率は高いままだ。ここ数年は米国株の好調を背景に、取引量も増大している。国内株の取引手数料が完全無料となることで、米国株の取引手数料についても注目が高まる。
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
【開催期間】2023年8月22日(火)〜9月10日(日)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【本記事読者へのおすすめ講演】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング