リテール大革命

人か、ロボットか 「餃子の王将」と「大阪王将」が異なる一手 厨房で起きている見過ごせない変化長浜惇之介のトレンドアンテナ(1/5 ページ)

» 2023年09月12日 10時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

 餃子をメインとする代表的な中華チェーンの「大阪王将」と「餃子の王将」で今後、調理の過程が大きく異なっていく可能性が高まっている。大阪王将では、人力に頼っていた調理を代行する、TechMagic(東京都江東区)が開発した調理ロボット「I-Robo」の導入が決まった。一方、餃子の王将では、あくまで人力による調理を追求。店員の調理スキルを磨くべく「王将調理道場」を開設している。機械化によってプロと遜色ない調理を目指す大阪王将に対して、餃子の王将は職人の養成に重きを置いている格好だ。

 人手不足に悩む飲食業界では、日本語がおぼつかず、業務遂行も未熟な外国人に店舗運営を任せざるを得ないケースも目立ってきている。限られた人員で、どうすれば安定した料理を提供し続けられるのか。各社で取り組みが始まっているのだ。

.大阪王将はロボットの導入を発表した一方、餃子の王将は職人の養成に重きを置く(撮影:筆者)

調理から洗浄までを担うロボットを導入した大阪王将

 イートアンドホールディングス傘下の大阪王将(本部オフィス・東京都品川区)は、全国に大阪王将を347店(2023年5月末現在)展開している。6月2日には、調理ロボットの研究開発を行うTechMagicとの協業を発表した。23年夏から店舗にテスト導入する算段であったが、後ろ倒しになり、9月からスタートする予定となっている。

大阪王将の店舗外観(同前)

 大阪王将が導入するI-Roboは、調理するメニューに応じて、加熱温度・加熱時間・鍋の回転スピード・回転方向を柔軟かつ適切に変えて調理ができる優れものだ。調理作業にとどまらず、調味料の供給・攪拌(かくはん)・加熱・調理後のフライパンの洗浄といった一連の作業も自動で担う。

 TechMagicは18年2月に設立。食を取り巻く多くの企業が直面する人手不足を解消し、生産性を高めるために、ハードウェアとソフトウェアの技術を高度に融合した自動化に取り組んでいる。柱は2つ。1つは、厨房内で発生する一連の調理工程を省人化する調理ロボット事業。もう1つが、セントラルキッチンや食品工場で発生する洗浄後の食器仕分けや、食品の定量盛り付け・加工・運搬などの単純作業を自動化する業務ロボット事業だ。

大阪王将がテスト導入を決めたTechMagicの「I-Robo」(出所:TechMagic発表のプレスリリース)

 飲食業界では人手不足が大きな問題となっているが、特に料理人の確保と育成は喫緊の課題だ。大阪王将では「職人クオリティの料理を、調理ロボットで提供できないか」といった思いがあり、その実現を目指す。現実化すれば、非常に画期的なことだ。

 なお大阪王将では、各店ごとに独自メニューを開発して提供する試みを行っている。具体的には、地域に根付いた「町中華」とチェーン店のハイブリッドという、新たなビジネスモデルを打ち出している。従来より高度なことに取り組んでいる中で、人材の確保で苦戦して改革を後退させるわけにはいかない事情がある。

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