新時代セールスの教科書

売り上げが伸びない原因は「個人」のせいではない 今、営業組織の変革が求められているワケ実践セールス・イネーブルメント(2/3 ページ)

» 2023年09月13日 07時00分 公開
[山下貴宏ITmedia]
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営業は組織の仕組みを整える必要がある

 営業スタイルの変化については、次のようなデータもあります。

パンデミックによる営業スタイルの見直し

 HubSpot社の調査(※1)では、新型コロナウイルス収束前後の好ましい営業スタイルについて売り手(営業)と買い手(顧客)の意見を公表しています。

※1 出所:HubSpot Japan「HubSpot年次調査:日本の営業に関する意識・実態調査2021

セールスイネーブルメント (書籍掲載の図版を引用)

 それによると、営業は「訪問営業が好ましい」という回答が新型コロナウイルス感染拡大前後ともに多かったのに対して、顧客の回答は新型コロナウイルスの前後で大きく逆転しました。つまり、「営業が良いと考える営業スタイル」と「顧客が望む営業スタイル」にギャップが発生し、営業は売り方自体を変える必要性に迫られたということです。

顧客の購買意思決定方法の変化

 デジタル技術の進歩は顧客の意思決定のあり方も変えました。10年ほど前から欧米では顧客は営業にコンタクトする前にある程度の意思決定を進めてきました。米国のコーポレート・エグゼクティブ・ボード(CEB)が発表した“The Digital Evolution In B2B Marketing”の中で「BtoBでは顧客の購買プロセスの57%が、営業担当者に会う前にすでに終わっている」と述べています。この傾向は日本でも進んでいます。

 グリーゼの調査(※2)によると、82%の顧客が営業担当との面会前に購入製品の絞り込みを終えており、2016年の調査と比較して2021年では4ポイント増加したとしています。顧客はあらゆるデジタルチャネルを通じて自社の課題解決を実現してくれそうな企業の情報を集めてあらかじめ選定し、最後の最後に営業にコンタクトするということです。そのため、営業はマーケティング部門と連携し、顧客認知獲得に向けて組織的に取り組む必要がでてきたのです。

※2 出所:グリーゼ「【調査結果発表】BtoB製品購入プロセスにおける Webマーケティングの重要性(2021年版)

営業組織の環境変化への対応の遅れ

 一方で、営業組織の環境変化への対応は進んでいるとはいえません。翔泳社の『Sales Tech 市場と営業組織のテクノロジー活用最新動向調査2021』によれば、6つの観点から営業組織における仕組み化と成果の関係を調査しています。まず「コロナの影響を受けたかどうか」という質問で一番多かった回答は「どちらかというとマイナスの影響を受けた」(37.9%)でした。「マイナスの影響を受けた」(24.4%)を合わせると62.3%が全体としてマイナスの影響を受けたと回答しています。これは皆さんも実感と相違ない数値だと思います。

 そのうえで調査では、営業活動に関わる「新規顧客獲得」「既存顧客へのアップセル/クロスセル」「営業支援(マーケティング)」「営業担当者の採用・育成」「営業支援システムの活用」について取り組み状況を質問しています。最も多かった回答はいずれも「仕組みが整っておらず成果もでていない」でした。企業によって差はありますが、マクロ的に見ると「営業個人」の問題ではなく「営業組織の仕組み」を変える必要があるといえます。

セールスイネーブルメント (書籍掲載の図版を引用)

 ここまで見てきたことを少し整理すると、以下のような状況です。

コロナの影響を受けて営業はマイナス影響を受け、営業スタイル自体も変える必要性に迫られた。一方、顧客はデジタルを活用し営業を介さずとも意思決定を進めつつある。営業組織はこれらの環境変化に対応して売上を維持拡大するための仕組みの整備が必要だが進んでおらず、なんらかの解決策が求められている

 営業組織の中を想像すると、多くの営業は環境変化に適応できず、会社や上司から断片的なサポートしか得られず、何とか目先の売上を確保することに孤軍奮闘している状況がイメージされます。皆さんの営業組織はいかがでしょうか?

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