2023年の法定最低賃金の目安が決まり、全国平均で初めて1000円を超えることが確実になりました。マスコミはこれを歓迎する論調で一色に染まっています。
しかし、筆者はこの風潮に待ったをかけたいと思います。最低賃金法は「これ未満の賃金で働かせてはいけない」と定めているだけであり、払えない企業に助成をするわけでも、シフトを減らすことを禁止しているわけでもありません。こんな政策で本当に国民の生活が良くなるのでしょうか。
欧米に目を向けると、最低賃金制度は必ずしも必要ではないと言えます。
図1は1978年以降の、法定最低賃金と一般労働者(正社員)の賃金を比べたものです。正社員の賃金は1990年代の半ばから停滞していますが、最低賃金は上がっています。
それでもまだ、日本の最低賃金は国際的にみて低めです。図2は諸外国の最低賃金(2023年1月1日現在)のうち、時間額で定められているものを、23年8月7日時点の為替レートで日本円に換算したものです。日本が一番低くなっています。
最低賃金を月単位で決めている国では、オランダとベルギーがともに29万円、スペインが20万円ですから、これらの国々と比べてもやはり日本は低めです。
日本の最低賃金はなぜこうも低いのか。第1の理由は中央最低賃金審議会が雇用重視であることです。玉田桂子・福岡大学教授によると、最低賃金は有効求人倍率の影響を最も強く受けているといいます。生計費や企業の支払い能力、労働組合組織率などの影響は受けていません。最低賃金を上げても、それによって雇用が減っては困ります。このため金額を多少犠牲にしても雇用を優先しているのです。
日本は一般的な賃金水準が低いとされています。図3は日米仏独の、製造業の1時間あたり賃金を比べたものですが、4カ国の中でやはり日本が最低となっています。
日本の賃金が低いのは、労働生産性(一人の労働者が1時間で生み出す付加価値)が低いためです。日本の労働者一人1時間あたり労働生産性(21年)は5006円で、OECDに加盟する38か国中27位、OECD平均の82%です。労働生産性が低い理由としては、総じて企業規模が小さいこと、IT化が遅れていること、国内取引中心で貿易が活発でないことなどが指摘されています。
第2に、目安額の決め方にも一因があるという説があります。法定最低賃金は中央最低賃金審議会が示した目安を参考にして、都道府県別に地方最低賃金審議会で決められます。目安はABCDという4つのランクに分けて示され、各都道府県はいずれかのランクに振り分けられます。目安はあくまで参考であり、拘束するものではありません。しかし地方の審議会としては、目安を下回る決定をしては都道府県民からの非難を浴びてしまいます。実質的には拘束されているも同然です。2022年は22の都道府県で実際の最低賃金が目安を上回り、目安を下回った都道府県はありませんでした。
ランク内のどの都道府県も目安を下回ることがないように、目安は同一のランク内で一番支払い能力が低い都道府県でも受け入れられるような金額に決められると言われています。
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