2つ目の「コア・グループをつくる」について、コッターは推進の中心となるグループをコア・グループと呼んでいます。全社で組織改革をするときには、人事部門など所管部署メンバーによるプロジェクトとは別に、以下のようなコア・グループが組成されることがあります。
(1)このために特別に任命したメンバーによるプロジェクト(部署横断であることが多い)
(2)有志メンバーによる部門横断プロジェクト(同上)
(3)パイロット部署(トライアル部署)
コア・グループの目的は、大きく分けて2つあります。
一つははプロジェクトの全体設計を行い、推進を主導し、支援すること。もう一つは、対象を絞ることで、短期的に社内での成功事例をつくって、全社展開の課題を明らかにしたり、好事例を横展開したりすることです。
(1)および(2)は両方またはいずれかを、(3)は後者を担います。なお、コア・グループは以下のようなケースで組成されることが多いです。
- 会社や組織の規模が大きいとき※(1)〜(3)いずれも採られる
- 全社的には、テーマの優先順位が上がっていないとき※(2)で採られる。一部の部門が賛同している場合は(3)もある
- 部門によって職種特性が異なる場合※(3)で採られることが多い
全社的に改革の機運を醸成したい場合や、実施内容が明確に決まっている場合など、コア・グループを作らずに全社で一斉に取り組む場合もありますので、コア・グループは必ず必要というわけではありません。
ちなみにパイロット部署をどこにするか検討する際は、以下のようにトライアルを通じて、プロジェクトでどのようなことを実現してほしいかを考えます(その他、組織長のタイプや、部署の状況といった別の観点もあります)。
- 「あの部署が取り組みの成果をあげられるなら、自分の部署も成果をあげられるはず」=自社で人数が多い職種で構成されるような大票田の部署
- 「あの部署には、この機会により高い成果をあげてもらおう」=自律的に先行して取り組んできた部署(この部署には、実験的、挑戦的な取り組みに協力いただく)
次は「ビジョンを掲げ、イニシアチブを決める」です。コッターは「行く先がわかっている方がやる気が出るし、具体的な目標をめざすほうが力を発揮できる」と記載しています。コッターは、これをコア・グループが行うと書いていますが、ここでは、パイロット部署、または全社の各組織に「長時間労働の改善」というテーマが降りてきたことを想像してみましょう。
ここで大事なのは、自組織における改革の意味を作り、自分たちのものにすることです。私たちは得てして、会社から発信されてきた目的をそのまま借りてきがちです。もっといえば「時間外労働〇%削減」とだけ降りてくるケースも散見されます。自分たちの改革にするために、パイロット部署や各組織では、以下の画像ようなことを把握し、決めていきます。
(ア)長時間労働が改善されたら、何をしたいか
(イ)長時間労働が改善されたら、どのような良いことがあるか
(ウ)もっと時間を使いたいことは何か/したらよいが、なかなかできないことは何か
(エ)減らしていきたい時間は何か(ムダが多い、心理的負荷が高い)
(オ)改革を進めるうえでの気になりごとはなにか
(カ)改革の推進のために、上位組織、他部署、上司などにお願いしたいことはあるか
(キ)何から始めるか
(ア)と(イ)は目指す姿と言い換えることもできます。(ア)の長時間労働が改善されたら何をしたいかは、仕事に関係することでも、生活に関することでも構いません。
(イ)の長時間労働が改善されるとどのような良いことがあるかは(ア)の派生形です。長時間労働の改善といっても、改革の過程では負荷が一時的に増える場合があります。よって、改革の暁にどのような状況になっていたいかを思い描いておくことは重要です。
また、長時間労働の改善というと、労働時間という数字に目が行きがちです。実際に労働時間を〇%削減すると目標を置くことで、労働時間が減ったり、生産性が上がったりするケースも見られます。しかし、労働時間という総量を減らすだけで業務の内容を見直さない活動は、会社の数値目標達成のためにやらされている感じが出ます。よって、内容をどのように変えていきたいかという話もしていった方がよいでしょう。
労働時間を「減らす」ことに目がいきがちですが、(ウ)の記載のように、もっと増やしたい時間を考えることも、パイロット部署や各組織での取り組みが自分たちのものになる一助となります。
(エ)で減らしていきたい時間をすり合わせたうえで、(キ)で何から始めるかを考えるのですが、その途中にあるのが、(オ)や(カ)です。現状を変えることは容易ではありません。「その状況を改善するために今の負荷が増すよりも、大変な現状を続けている方がマシだ」という状況が生じることもあります。
ほかにも、「たくさん働きたい人もいる」「残業代が減ったら困る」といった意見が出ることも考えられます。こうした理由にどのように対応するか(対応しないと決めることも含めて)考えることも、自組織における改革の意味をつくり、自分たちのものにするうえで奏功するでしょう。
今回は「会社や組織の本気を示すステージ」について、「長時間労働の改善」を題材にご紹介していきました。コッターが実務的にはどのように扱われるかも少し感じていただけたかもしれません。次回は、「はじめの一歩と変化の機運づくりのステージ」を取り上げます。
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