人材への投資って、会社の経営に直接インパクトがあるんですか?――こんな疑問を抱く経営層がまだまだ多い。「“人財”重視」をうたう企業が増えたとはいえ、働きやすい環境の整備やリスキリングの支援といった組織や人への投資は、目に見える効果がすぐに現れないため理解を得られず苦労している人事担当者もいるだろう。
そうでなくても、人的資本開示など新たに対応することが増えて面倒に感じているかもしれない。そんな逆風に吹かれている状況が「人的資本経営」の登場で一変すると話すのは、人事分野を専門にするデロイト トーマツ コンサルティングの田中公康さん(執行役員、ヒューマンキャピタルデジタル推進責任者)だ。
「組織や人事関係のコンサルを長く担当していますが、経営層が常に口にするのが『これ(人への投資)って意味あるの?』というせりふです。だから人的資本経営が出てきたとき、(人への投資の価値を)経営層に説明しやすいから『良いな』と思いました。人事施策と経営がダイレクトにつながるので、説明時の歯がゆさを味わわなくて済みます」(田中さん)
人的資本経営のストーリーを踏まえれば、人事担当者のやりたいことができるような世界になってきたと田中さんは笑顔で語る。では、どのように筋道を立てていけばいいのか。今回は、バーチャルオフィス「ovice」を運営するoVice(石川県七尾市)が開催したイベント「ovice Summit 2023」(2023年9月14日)に登壇した田中さんの講演を振り返っていく。
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員/パートナー。専門は、デジタル時代に対応した働き方改革や組織・人材マネジメントの変革。DX実現に向けたDigital DNAの強化、組織・推進体制の構築、人材育成などをテーマにしたプロジェクトを幅広い業界に提供している。直近では、ヒューマンキャピタルデジタル推進責任者として自部門のDXもリードするかたわら、人的資本経営の研究・推進にも従事。
著書に「「人的資本経営」ストラテジー」「DX経営戦略」「ワークスタイル変革」などがある
人的資本経営の根底には、従業員を「資源」として消費財的に扱うのではなく、企業の価値を創造する「資本」として捉える考え方がある。管理対象から、資本に変わったことで人材に投じる資金は「投資」になった。背景には社会的な価値観の変化や、投資家が財務情報だけでなく人的資本も投資判断の基準にし始めたこと、企業が優秀な人材を確保する狙いなどがある。
欧州から始まった人的資本経営の取り組みは、23年に日本でも人的資本の開示が義務化された。「スピード感がある対応だった」と田中さんは評価する。
では、この人的資本経営をどう生かせば「人事担当者がやりたいこと」をできるようになるのか。答えは、人的資本開示の国際ガイドライン「ISO30414」と施策をうまく結び付けることだと田中さんは説明する。
ISO30414は、人的資本を評価する項目を国際規格「ISO」で規定したもので、18年12月に新設された。目的は持続的な労働力の支援と、組織に対する人材の貢献を透明化することだ。次の11領域の指標を定めている。
この11領域と人事施策をつなげることで、人事担当者が経営層を説得しやすくなると田中さんは話す。例えば働き方改革による従業員のエンゲージメント向上は5番「組織文化」に、リスキリングは9番「スキルと能力」に関連付けられる。
「人的資本開示によって、取り組み内容が株価に影響するようになったので経営層は無視できなくなります。もちろん自分たちの施策が本当に意味があるか、経営戦略に影響を与えられるかを意識する必要はあります」(田中さん)
ISO30414と人事施策をどうひも付けていけばいいのか。田中さんは「働き方」を例に解説した。
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