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「上司からの指示・命令のない組織」はうまくいく? GMOグローバルサイン・HDの挑戦(2/3 ページ)

» 2023年11月07日 08時00分 公開
[大村果歩ITmedia]

「ヒエラルキー組織では限界を感じた」 カルチャー改革の一環

 ホラクラシーを導入した背景には、同社が2017年から組織と組織内カルチャーの大きな変革に取り組み始めたことがある。「事業重視」だった従来の経営体制から、より「ヒト」にフォーカスを当てた経営を目指しており、ホラクラシーの導入は、このカルチャー改革の一環で行った。

 同社は「コトをITで変えていく。」をミッションに、従業員の目指すべき姿を「Oneパートナー像」と定義している。

 Oneパートナー像では、(1)当事者である、(2)専門家である、(3)楽しむ人である――これら3つを目指している。田中さんは「レベル感に多少の差はあれど、入社直後であっても何かしらの専門性を培っていくことを目指しています」と説明する。

組織 Oneパートナー像(提供:GMOグローバルサイン・ホールディングス)

 「この3つを実現したいと考えたときに、従来のヒエラルキー組織を維持して新たな制度を活用していくやり方では、いびつになってしまうと考えました。また、従来の縦割りの組織図をサークルに置き換えるのではなく、より当事者意識を持ち、専門性を高めていくために、ジョブのカテゴリーを設けて職種や役割の専門性を高められるようにしています。

 今までは『○○部営業』『××部マーケ』などの区分になっていましたが、ホラクラシーでは、部や課という枠を超えて、専門性にひもづいて、横串で情報交換やスキル連携をしたり、リソースを調整したりしやすくなると考えました」

「上司からの指示・命令のない組織」はうまくいく?

 とはいえ、これまで上司と部下という立場があって、トップダウンで業務を進めていた従業員にとっては、不安な点も多かったのではないか。上司からの支持や命令がない状態で、円滑に業務は進むのか。

 「やっぱり上司側、部下側それぞれで『やりにくい』という声は上がっていました」と田中さん。部下からは、これまで上司に決めてもらえることで一種“楽をしている”ような部分もあったが、全てセルフマネジメントで管理し、自身で決めていくことに不安を覚える声があったという。

 上司からは「どこまで部下にやってもらえばいいか」「逆にどこまでなら部下に指示していいのか。マネジメントしていいものか」――と、塩梅(あんばい)に悩む意見もあった。

 「『どこまで言っていいのか』と一種の“怖さ”を感じていたようです。また、従業員がそれぞれで意思決定をするため『統制力がなくなった』という上司側の意見もありました。逆に部下側からは『それって自分で決めていいですよね』という上司層への意見もありましたね」

組織 (提供:GMOグローバルサイン・ホールディングス)

 指示が出せないことへの戸惑いも多少はある一方、管理職にとっては、ホラクラシーへの移行によって「業務負荷の改善」という効果も見られた。

 「カルチャー改革を進める中で、管理職の負荷が高い状態であると気付きました。ホラクラシーの導入によって、結果として管理職の負荷改善につながったと感じています。

 ホラクラシーの導入を検討する中で『管理って何だろうね』という議論をしました。当社では、マネジメントは『役割の一つ』であって、プロジェクトの管理という役割を、専門性を持って遂行するという認識を持っています。

 ホラクラシーへの移行により、従業員は、これまで上司がやってくれていた一部の業務や管理系のタスクを、自分のマネジメントは自分でやれるようになる状態を目指しています。いきなりは無理だということであれば、部下のサポートをするという“役割”が別にあればいいよね、という考え方です」

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