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「営業課長は総務部長より高年収」にする企業が狙っていること(1/2 ページ)

» 2023年11月28日 10時50分 公開

 「部長ポジションよりも職務給が高い課長ポジション」━━奇妙な響きかもしれませんが、例えば総務部長ポジションよりも営業課長ポジションの職務給(業務内容を給与にひも付ける給与)が高いように給与が設定されていれば、起こり得ることです。

 抜群の業績を挙げた営業課長が高額の業績賞与をもらい、総務部長よりも年収が高くなるのはさほど珍しいことではありません。しかし、賞与ではなく「基本給としての職務給」についてはどうでしょうか? この答えは企業によって異なります。

「業績の良い営業課長」は総務部長より高給━━企業側の意図

 職務給を導入している大手企業にヒアリング調査を行ったところ、各ポジションの職務記述書を作って職務評価を行う企業は、部長ポジションより職務給が高い課長ポジションが制度上、存在しうるという結果でした。

 各ポジションというのは、単に課長ということではなく人事課長、経理課長、営業第一課長、営業第二課長……といった具体的な担当組織を指しています。

 各ポジションの職務記述書で定義された役割と責任の大きさを評価して職務等級を決定する考え方のため、中には部長ポジションより高い職務評価(すなわち職務給)を得る課長ポジションが出てきます。

 人事分野に詳しい読者の方ならば「職務給を導入するときにはポジション別の職務記述書を作って職務評価を行うのが普通では?」と思われるかもしれません。しかし、実際にそのようなアプローチをとる企業は一部だけです。ポジション別の職務記述書の作成とメンテナンスは実に大変な作業です。企業のコメントを紹介します。

 職務記述書を全てのポジションに導入している。現時点では1400職種の職務記述書 で全社を網羅していて、各職種がさらに職務等級別に分かれている。

 例えば、人事であれば採用、事業所人事などの職務記述書があり、各等級の仕事が定義されている。メンテナンスは人事部が管轄しているが、職種ごとにオーナーを置いていて、職務記述書の追加削除はオーナーの判断になる。

 なぜこのように手間がかかることをするのかというと、「すでに海外のグループ会社はこのような形になっていて、後追いで日本の本社の人事制度を海外に合わせた」とのことです。

 「事業戦略に応じて組織とポジションが決まり、各ポジションの職務記述書を基にした職務評価で職務給が決まることが重要」で、それが社員に対して説明可能な人事システムだという考え方なのです。筆者は、ポジション別の職務記述書を作るタイプの企業を「グローバル志向型」と名付けました。

 職務給導入企業には3つのタイプがあります。「グローバル志向型」「組織長厚遇型」「フレキシブル型」です。(詳しくは「総合職も『仕事によって給与を変える』べき? 誤解だらけの『職務給』3つのタイプ」をご覧ください)「管理職厚遇型」の企業と「フレキシブル型」の企業は、職務記述書は作らず、職務給は必ず課長よりも部長のほうが高い形でした。

photo (図表)組織長のグレーディング(格付)方法の違い

 「管理職厚遇型」の企業や「フレキシブル型」の企業の考え方は「グローバル志向型」の企業とは大きく異なります。「本部長 > 部長 > 課長」いう役職位序列ありきで、「そもそも課長ポジションよりも部長ポジションの方が上位であり、部長ポジションよりも本部長ポジションのほうが上位である」ことを大前提にしています。

 もともと組織設置基準で組織編成をコントロールしているのであれば、あらためて課長ポジションと部長ポジションを比べる必要はないという考え方なのです。これらの企業は課長や部長に登用した人の給与を役職位序列に沿った形に整備するために職務給を導入したとも言えます。この職務記述書を作らないアプローチは、いわば日本式です。

 役職位序列に沿って並べた後は「部長は部長」ということで、部長であれば全ポジション同一等級にするか、それとも「特に大規模な組織の部長 > 標準的組織の部長」などのように同一役職位であっても等級をいくつかに分けるかを決めていきます。いずれにしても、課長ポジションは部長ポジションより下位です。企業のコメントを紹介します。

 職務記述書を書いてみて、影響度や部下の多さなど、いろいろな軸を試してみたが、課長ポストはそれほど大きな差がないという感じがあった。課長はマネジメントの実務があるので職責の大きさが極端に大きくなったり、小さくなったりということがない。

 スパンオブコントロールの考え方から、むしろ課組織の大きさをきちんとしようという考え方で、組織を分割する方が多い。部長ポストは、組織の大きさや経営への関与の仕方で差がついてくる。

 このように職務記述書を作る企業と作らない企業があるわけですが、これはそれぞれ異なるニーズがあり、それに応じたアプローチを採用しています。一概にどちらが正しいとか優れているわけではなく、2通りのやり方があるというだけです。

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