「組織をより良くして、売り上げ増や働き方改革を目指そう」――多くの企業が、日々組織改革に取り組んでいる。変化し続けることを求められる中「実際何も変わらなかった」「変わることばかり求められて疲れてしまった」など、改革が失敗に終わるケースも少なくない。
本連載では、組織人事コンサルタントの武藤久美子氏が、5回にわたって組織改革道中の落とし穴や壁、その乗り越え方をご紹介。
過去の記事はコチラ
「組織をより良くして、業績を上げたい」「社員の働き方を見直し、効率よく働ける環境を整えたい」――多くの企業が、日々組織をより良くするために改革に取り組んでいます。しかし、改革は全社を巻き込む必要があり、うまくいかないケースもよくあります。
前回(第2のステージ「はじめの一歩と変化の機運づくりのステージ」)に引き続き、「長時間労働の改善」に取り組む場合を題材として、組織改革の第3のステージ「アタリマエ行動への進化のステージ」の進め方をご紹介します。
組織改革のステージごとに、具体的にどのような行動を取り、進行していったらよいでしょうか? 組織改革の分野で著名なジョン・P・コッター(以下、コッターと記載)の「8つのアクセラレータ(※1)」を適宜ご紹介していきます。なお「アクセラレータ」はあまりなじみのない言葉なので、ここからは分かりやすさを重視して「プロセス」と記載します。
※1:アクセラレータは「加速させるもの」という意味。コッターの著書『実行する組織』 の中では「ネットワーク組織の基本プロセスを加速するためのシステム」という意味が込められている
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ コンサルティング部 エグゼクティブコンサルタント
2005年、リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとし てこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍など。働き方改革やリモートワークなどのコンサルティングにおいて、クライアントの業界の先進事例をつくりだしている。業務改革、風土改革、人材育成を同時実現する手法を得意とする。リクルート ワークス研究所 研究員(現在/兼務)。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。著書に『リモートマネジメントの教科書』(著書/クロスメディア・パブリッシング)
第3ステージを「アタリマエ行動への進化のステージ」と名付けました。前回の第2ステージが「今回の動きに会社の本気を感じる」「会社が変わる予感がする」といった変化の機運を醸成し、行動を始めるステージだとしたら、第3ステージはその行動を一過性のものにしないように継続していくステージです。
私は第3ステージについて説明するときに、まきとたき火を事例に出します。第2ステージで、着火剤の力も借りて、まきに火をつけることに成功したとします。しかし、頻繁にまきをくべないと(補給していかないと)、火が消えてしまいます。このまきを補給することが第3ステージにおいて、私が行っていることです。
第3ステージはコッターでいうと、以下の2つにあたります。
(6)早めに成果を上げて祝う
(7)加速を維持する
今回も「長時間労働の改善」を題材に取り上げます。「長時間労働の改善」のような全社を対象にしたテーマでは、経営層、人事部門、事業の企画部門、各部門の管理職層とメンバーなど、さまざまな方が参画します。ここでは「長時間労働の改善」が会社(経営層や人事総務部門など)から発せられて、各組織(事業部門や部、職場、チーム)でそれを推進していくケースを考えてみましょう。
「(6)早めに成果を上げて祝う」とは、実務上では大きく分けて2つのパターンがあります。
1つ目は「全社で水曜日をノー残業デーにしよう」と決めて全員で取り組むなど、「広く浅く」行うことで早めに成果を上げるパターン。2つ目は、トライアル部署を選んで、そこで短期的に「狭く深く」成果を上げてもらうパターンです。この2つは並行して行うことも可能です。
「広く浅く」することで早めに成果を上げる利点は、会社の中で多くの方が、変化の実感値を得られることです。例えば水曜日のノー残業デーでいえば、これまで残業時間が読めなくて社外の友人と会う機会が約束できなかった人が、友人との時間を過ごせた。新しく習い事を始めたといった変化が起きるかもしれません。
また、定時にあがるために、日中の労働時間でいつもより集中できているという変化を感じる方もいるかもしれません。こうして広く浅く、皆が比較的易しいものに取り組むことで身近な変化を感じれば、「今回の長時間労働改善の取り組みは自分にとっても良い影響がある」と思える人が増えるでしょう。
一方で、広く浅く実施できるものは、本当に解決すべき課題には触れていないからすぐに取り組めるとも言えます。
例えば、会議室のポスター(5分前終了など)、社外の好事例を紹介するセミナーの実施、長時間労働削減へのアイデア募集といった施策は、一つひとつは立派な長時間労働改善施策だと思います。しかし、こうした「広く浅く」行うものばかりを続けていると、管理職やメンバーからしたら「人事部門(長時間労働改善の企画推進部署)がやった感を出したいだけで、本質的な解決を図ろうとはしていない」と思ってしまう可能性も。よって、改革はどこかのタイミングで本質的なものに着手していかないといけなくなります。
もう1つの「狭く深く」はトライアル部署を絞って、長時間労働改善と同時に、労働時間の中身の見直し(例:顧客への提供価値につながる業務の割合を増やす)も併せて、約2カ月〜半年くらいの短期間で実行。トライアル部署に対して、長時間労働改善の企画推進部署は支援を行います。
私はこの取り組みを「成果を差し出す」と呼んでいます。言葉を補うと「自社における長時間労働改善の成功事例を、それ以外の部署の目の前に示すことで、“当社では難しい”という言い訳ができないなと思ってもらう」ということです。
トライアルという形で対象部署を絞ることで、私や企画推進部署がその部署の取り組みに注力できますので、成功確率が上がります。しかし、トライアル部署が本社のために取り組みを“やらされている”と感じている場合は、取り組みへのエネルギーはあまり生まれません。よって、前回も取り上げたように「自分たちの取り組みだ」と思えるような準備が必要です。
このように「狭く深く」成果を上げることは「成果を差し出す」意味でとても重要です。特に、会社の規模が大きく、「全社」とくくるには職種や組織風土が異なるようなときには、より重要度が増します。しかし、「狭く深い」パターンにも留意点があります(後述)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング