今回のキャンペーンもその可能性は否めない。特に筆者が気になるのは、広告の「あなたが幸せなら、それでいい」というキャッチコピーだ。
一見すると多様性を認めているようにも聞こえるが、同性婚や事実婚の人々が素直に受け取れば、「今の社会制度の中で自分らしい幸せを見つけなさい」と諭されているような印象を受ける。
つまり、同性婚に関する法整備を早くすべきだとか、今の日本社会の差別的な風潮を変えようという主張ではなく、あくまで「現状維持」を前提としている。
「現状」を変えるつもりがないから、ゼクシィという「男女の結婚」を前提とした広告媒体の中に、同性婚カップルを強引に放り込んでしまう。これは大炎上した東急歌舞伎町タワーのジェンダーレストイレと全く同じ考え方だ。
一般的な性認識の人々とLGBTQの人々にひとつのトレイを利用させることは多様性でもなんでもなく、多様性を殺して、ひとつの価値観に強制的に従わせることだ。本当に多様性を大事にしたいのなら、多種多様な形のトイレをつくるべきなのだ。
もしゼクシィが本気で多様な結婚の姿を応援したいと思うのなら、同性カップルを広告で「見せ物」のように扱うのではなく、正々堂々と「同性婚ゼクシィ」とかつくったらどうだろうか。
え? そんなのつくってももうからない? いやいや、それこそ「あなたが幸せなら、それでいい」の精神でぜひとも多様な結婚のカタチを応援してくださいよ。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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