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携帯ショップに警備会社──不人気業種でも「人が集まり辞めない」企業がある その秘密は?働き方の「今」を知る(2/6 ページ)

» 2023年12月07日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

(1)株式会社アドバンス(茨城県・携帯電話販売代理店)

 街中でもよく見かける、携帯キャリアのブランド名を冠した携帯電話販売店。その店舗数は今や全国で約8000店にものぼり、これは我が国に存在するハンバーガーショップの総店舗数(約6500店)をも超えている。

 しかし、実はこれらの携帯ショップのうち、ドコモやソフトバンクなど携帯キャリア各社が直営している店舗はわずか2%ほどしかないことをご存知だろうか。では残りの98%はどこが運営しているかというと、携帯キャリア各社と代理店契約を結び、一般客や法人顧客に販売する「携帯販売代理店」が手掛けている。

 当該領域で全国展開している大手としては「ティーガイア」や「ベルパーク」などが挙げられ、いずれも株式上場しており、年間売上高でも1000億円以上の規模となる大企業である。

 しかしこの業界は慢性的な人手不足に悩まされている。そもそも小売販売業自体、平均的な離職率が約20%程度を記録している中で、特に携帯ショップ店員の離職率は3カ月で30%、1年で50%とさえ言われているのだ。

 人がなかなか定着しないのは「厳しい販売ノルマ」「機種や料金プラン、キャンペーンなど覚えるべきことが膨大」、そして「残業が多く休みが取りにくい」といった点が主な元凶だと言われている。

 このような厳しい業界環境の中で、従業員の離職率はわずか10.9%、年間休日115日を確保し、平均残業も月あたり10時間程度、しかも残業代は1分単位で全額支給、産休・育休取得率100%という良好な労働環境を誇る会社が茨城県に存在する。それがアドバンスだ。

アドバンス(画像は同社のWebサイトより)

 同社は今年で創業から29期目を迎えるが、現在まで連続黒字を継続。コロナ禍でも2期連続で最高益を記録した高収益企業でもある。そう聞くと「業績至上主義で、サービスクオリティは二の次の会社なのでは?」と思われるかもしれないが、実態はその真逆だ。同社では関東圏を中心に、ドコモ、ソフトバンク、au全てのキャリアショップを全44店舗運営する中堅規模の代理店だが、ドコモでは代理店品質を評価する統一評価制度の関信越エリア運営代理店部門で、全代理店中第1位の表彰を受けている。

 またソフトバンクでも関東の「優秀オーナー部門」において5年連続で上位表彰を得ているほか、顧客満足度のランキングでも関東の上位にランクインしている数少ない代理店なのだ。さらには、auのショップ店舗マネジメントコンテストである「CX AWARD2022」においても同社運営店舗が全国1位となったほか、優秀な販売スタッフを表彰する「スーパーセールスパーソングランプリ」においても、法人営業で茨城県の1位と2位、千葉県1位、神奈川県1位は同社のスタッフがその栄誉に輝いている。すなわち、販売業績面でも接客クオリティ面でも、アドバンス社は全国トップクラスの実力派代理店なのである。

高評価のカギは「教育研修」

 携帯キャリア各社からこれほどまでに高評価を得られているのは、同社がスタッフの教育研修に多大なエネルギーを費やしているためだ。同社が従業員1人あたりにかける教育研修費は全国平均のおよそ4倍弱。新入社員に対しては1人に対して先輩社員1人が必ず「シスター」と呼ばれる教育係としてつき、半年間にわたってシフトをすべて共にし、つきっきりで仕事を教える体制となっている。そのシスターになるためにも選抜と研修があり、人に教えられるだけの知見と実績を持ったエース級スタッフだけが担当できるルールなのだ。

 その他にも、経営理念を浸透させるための理念研修、有名講師を招いたり外部講座に参加したりして人間性を磨くアドバンス塾、経営トップとディスカッションする中島塾など多様なコンテンツが用意されており、単に業務対応スキルを学ぶのみならず、社内外で通用するビジネスパーソンを養成する仕組みが整っている。

 ここまで人材育成に力を入れるのは、同社の経営理念である「前進・進歩・成長・進化」を実現するために、スタッフの成長をもっとも重視しているからだ。単にビジネスで利益を出すだけではなく、人として成長してよい人生をおくることで、巡り巡って顧客にも高品質のサービスを提供できることにつながり、結果的に組織にも利益がもたらされるという考えに基づいている。

 さらに同社は、携帯キャリアからの手数料収入に依存するビジネスモデル自体は大きく変わらない中で、入社5年目のリーダークラスで年収580万円、入社10年目のマネージャークラスで年収710万円など、業界内では頭一つ抜けて高額な報酬水準を実現できている。

 これは、基本給に加えて同社独自の「業績賞与」が存在するからであり、なんと最終利益の40%を社員に還元している。「皆で頑張って皆で分け合う」というのが同社の考えなのである。

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