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携帯ショップに警備会社──不人気業種でも「人が集まり辞めない」企業がある その秘密は?働き方の「今」を知る(5/6 ページ)

» 2023年12月07日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

強みが作られてきた変遷

 同社創業は1998年。現・代表取締役の伊勢野寿一氏は当時より格闘家(総合格闘技)として活動する一方で、都内クラブにおいてバウンサー(用心棒)としても活動していた。当時のクラブイベントはトラブルが多かったが、氏は入場時のチェック、監視による抑止、会場内巡回による危険物除去などによるトラブル未然防止を徹底することで安全を確保。その着実な仕事ぶりから依頼が増加し、2008年に法人化、13年に警備業認可を取得した。

 同社の転機は、12年に人気アパレルブランドから来場者整理を依頼されたことだ。同社スタッフは単に入店待ち行列を整理するのみならず、悪質な転売屋や半グレグループなど、モラルやマナーに欠ける整列者の不正行為や迷惑行為(列の割り込み、入れ替わり、近隣での転売行為、ゴミのポイ捨てなど)に対しても、クラブセキュリティの経験実績をもって注意・抑止を実施。結果として、依頼主の「迷惑抑止とブランドコンセプト保持」とのニーズを十分に満たすことができ、来場者整理業務の依頼は同ブランドの全店舗へと広がった。これが契機となり、その他数多くのアパレルブランドからの受注につながることになる。

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

 その後は海水浴場の巡回警備、大規模野外フェスや格闘技イベントの警備のほか、渋谷ハロウィンやカウントダウンイベント、大使館パーティ、ラグビーワールドカップなど、官民双方において国際的なイベントに至るまでの警備・監視・巡回業務を受注、対応している。

 伊勢野氏は、我が国の警備業界に抱かれがちな「高齢者の再就職先として低賃金で働かされている」かのようなイメージを根底から払拭し、「次の世代が憧れと誇りを持って目指せる警備会社」をテーマに掲げ、警備業界の活性化に貢献する事が使命だと語る。警備理念は「Never will be…… Never ever will be……(起こる前に 何も起こさせない)」だ。

 同社のこれらの姿勢は、依頼主からの積極的な指名につながっている。単なる警備のみならず、現場での抑止力(危機管理、危機意識、専門的知識)を提供することに加え、元自衛隊員や現役の格闘家など、若く屈強なスタッフをそろえていることで依頼主のニーズに応え、またスタッフも依頼主から感謝を受け、仕事に誇りを持てるようになるという好循環が生まれている。

 警備スタッフに対しては、現場でのさまざまなトラブルに対処しつつ、顧客ニーズに沿えるようにするために、警備業法で規定されたものとは別に、自社独自の教育を施している。具体的には、これまでの同社内で培われた多様な現場でのトラブル事例を基とした実践的な対応法の指導や、個人とチームによる護身術及び救命措置、自社運営のトレーニングジムでの総合格闘技を応用したトレーニング実施、そして礼儀や言葉遣い、身だしなみ、立ち居振舞い、気配りなど、相手に好印象を与えられる対応など多岐におよぶ。

 これらの教育方針を徹底することによってスタッフの質が担保できるようになり、創業当時は依頼主からの指名が一部のスタッフに偏っていた状況から、現在は事業者としてのBONDSを指名される状況へと変化した。結果として、単発イベントのみならず、組織として常駐警備案件を獲得できるようになり、売り上げも雇用も安定していくこととなった。

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