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携帯ショップに警備会社──不人気業種でも「人が集まり辞めない」企業がある その秘密は?働き方の「今」を知る(6/6 ページ)

» 2023年12月07日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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高水準な給与、2年目の月収は……

 ちなみに、同社における報酬水準は業界の中でもかなり高いレベルを維持している。警察庁調査によると2023年現在、我が国には1万社を超える警備会社が存在するが、同社は後発、小規模ながら、平均年収は大手6社に迫る勢いだ。

 以前、AbemaTVにて放送された 「給与明細」という番組において同社スタッフが採り上げられたことがあったが、彼は2年目の若手でありながら月額41万円超の給与が支払われていた。

 伊勢野氏自身も「メンバーの生涯年収をどうしたら上げられるか」との考えに基づいて、年間勤務、責任者、資格、MVPなどの各種手当を用意し、警備業資格取得支援などの施策を打ち出しているが、何より高給を実現できている根本は、同社の営業努力と警備のクオリティ担保によるものであろう。依頼が殺到した結果として繁忙期ともなると本部オフィスに勤務する社員まで現場に出るくらいのフル稼働状態となり、その稼働分に従って報酬も高くなるという構図なのだ。

 もちろん、一方で労働環境面においても働きやすさに配慮しており、連勤などが重なった際には確実に代休や有休を取得させて心身両面でストレスを蓄積させないようにしているほか、セミナーなどでメンバーが集まる際には都度、アンケートを実施して現場の声を吸い上げ、働きやすい環境に向けた改善を実施している。また意識向上の施策として、スタイリッシュな制服を用意し、社宅や社食の完備、自社運営ジムを使用できるなどの体制も整えている。

 これらの施策と並行して、同社では自社のWebサイトやSNSなどでの情報発信に力を入れ続けてきた。その結果、外部のナビサイトや求人サイトを用いることなく、純粋に自社サイト経由での就業希望者を獲得できるようになったのだ。

 それも「警備会社で働きたい」とか「給料が高いから」といった理由ではなく、「BONDSが格好良いから働きたい」「こういう警備をしたかった」「使命感を持って働けると思った」など、個人として強い目的意識を持ち、エンゲージメントが高い状態で入職してくる人が大多数なのだ。結果として、現在は警備や格闘技の未経験者であっても育成できる状態になるとともに、入職後のミスマッチなども発生していないという。

 課題としてはバックオフィス機能がまだ充実しておらず、繫忙期は社長一人で事務作業をして対応している状態だというが、それでも同社で働く強い意思をもった求職者は本日も集まってくる。同社ではこれからも積極的に情報発信を継続していく考えだ。

 このように「人が集まり、辞めない」企業には相応の理由がある。とくに昨今は従業員エンゲージメントの向上が叫ばれているが、そのためには経営層がいかにコミットするかが重要といえよう。次回の記事では、さらに別の事例を紹介する。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

 

著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。

11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。


著者新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

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