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『信長の野望』誕生秘話 “斜陽産業の社長”が1000億円企業を生み出すまで(2/2 ページ)

» 2023年12月15日 08時00分 公開
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ハーバード・ビジネス・スクールの教材、NHK大河ドラマにも活用

――それまでの染料工業薬品業界と比べると、ものすごく先見性のあるスタートアップだったとも言えます。当時から成長産業だという見方はあったのでしょうか。

 ゲームの通信販売を始めたときは、これがこれからのビジネスになるとは夢にも思いませんでした。本当に趣味でゲームを作っていましたし、10本20本売れればいいやという気持ちでした。何しろ、81年当時は、日本にはまだゲーム会社がほとんどありませんでしたから。そこからゲーム産業が40年間にわたって右肩上がりで成長しっぱなしなんて予想もしなかったし、そんな将来図は全くなかったですね。

――「歴史シミュレーションゲーム」という形で差別化していた点でも『信長の野望』は画期的だったと思います。

 そうですね。当時ゲームというと『スペースインベーダー』や『パックマン』といったような、主にアクションゲームのことをゲームと言っていました。じっくり考えて楽しむタイプのゲームは少なかったです。

――なぜ「歴史シミュレーションゲーム」という新たなジャンルを生み出せたのですか。

 「もっともっと面白いゲームを作ってよ」とお客さまに言われ「どういったゲームが面白いのか」と考えると、その人の立場で発想が変わってきます。『川中島の合戦』は、信玄と謙信の5回にわたる戦いを描いたゲームでした。その戦いだけではなく、戦国時代の大名や武将は、戦い以外にも内政や外交を一生懸命やりながら、国取りをしていったことを表現したい思いがありました。

――その思いが『信長の野望』という「領国経営シミュレーションゲーム」の誕生につながるわけですね。

 考えてみると自分も中小企業の社長としてゲームを作っていましたから、ここが色濃く出ていたのだと思います。中小企業の社長は営業をするだけではなくて、人事も必要だし財務も必要だし、地域社会とのお付き合いも必要です。そこで、戦い以外の側面もゲームの中に入れると面白いだろうなと考えました。

――歴史をテーマにすることで、水平展開も容易になりそうです。

 戦国時代以外にも「他にもこの歴史を扱って欲しい」といったニーズがお客さまから寄せられましたから「三國志」「チンギスハーン」「大航海時代」「提督の決断」シリーズといったように、日本の歴史だけでなく、違う国の違う時代の歴史をテーマにできて、ものすごく広がっていきました。

 シミュレーションゲームは疑似体験を楽しむところがポイントです。歴史シミュレーションゲームは歴史の「if」を楽しむものですが、このコンセプトは馬主でも恋愛でも経営者でも良いわけです。それで馬主を疑似体験する『ウイニングポスト』や、経営者の疑似体験をする『トップマネジメント』、そして恋愛シミュレーションの『アンジェリーク』といった作品も展開していきました。

――まさに染料工業薬品会社としての苦境が『信長の野望』を生み出したとも言えそうです。もし染料工業薬品企業として軌道に乗っていたら『川中島の合戦』や『信長の野望』は世に出ていなかったわけですよね。

 出ていなかったですね。うまくいっていたら経営の本を探しに本屋に行くこともありませんでしたから、パソコン雑誌との出会いもありません。あの当時パソコンを買う気持ちにはならなかったと思います。

――その後、光栄はゲームメーカーとして今に至るわけですが、経営的に大変だった時期はありますか。

 染料工業薬品の時は大変でしたが、ゲーム会社になってからはもう毎日が楽しかったです。ゲームで遊ぶのも面白いですが、ゲームを作るのも面白いですから、経営が大変だったことはないですね。

――『信長の野望』が、ハーバード・ビジネス・スクールの教材に使われたり、NHK大河ドラマの解説コーナーにも活用されたりするなど、経営や歴史教育に活用する動きもあります。

 歴史に興味を抱く入口になっていることは、はっきりと言えると思います。『信長の野望』を通じて戦国時代に興味が出て、そして武将への興味が出る形で、どんどん歴史への興味が広がっていきます。それはイコール日本の歴史に興味が出てくることですから、戦国時代を軸にその前後の時代への興味にもつながります。歴史への関心を抱かせる窓口としての役割をゲームが担っていると思います。

 『信長の野望』自体に歴史があり、23年で40周年になります。当時『信長の野望』を遊んでいた方の多くが50代60代になっています。『信長の野望』が息子さんとの会話のきっかけになったり、逆にお子さんが『信長の野望』の新作を買ったことで、親や祖父母の世代の方が歴史を好きになったりした話を聞きますので、一定の役割があると思っています。

――8月からは『信長の野望』シリーズの位置情報ゲーム『出陣』の展開も始まっています。

 『出陣』によって、ただ単に歩くだけではなく、実在する名所旧跡を通じて歴史を知るきっかけになると思います。ゲーム内の名所旧跡の説明も充実していますので『出陣』を通じて歴史を好きになっていってくれるとうれしいですね。

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